朴本帰投
「…お疲れ様でした、朴本さん」
「おう」
SIRENの本部に戻ってきた朴本は、執務室でSIREN首領の波多野に結果を報告していた。ただ、長い付き合いである波多野が相手であるがゆえ、朴本の態度に、波多野への気遣いなどというものは感じられなかった。
そんな朴本を、波多野の隣に立っていた月乃は少し複雑そうな表情で眺めていた。
「ったく、胸糞悪ぃ光景だったぜ」
「随分と、ご機嫌斜めですね」
朴本は帰り道で寄ったコンビニで買ってきたおにぎりを、ソファに座ったままで食べていた。波多野は朴本を見ながら、特にその態度を咎めるでもなく、ただ苦笑していた。
「私と同い年くらいの女性でも売られてたんですか?」
「何でそうなるんだよ。思い上がるなよクソガキ」
「だって、朴本さんがそこまで不機嫌になる時って、いつもそうなんですもん」
波多野にそう言われ、朴本は顔をしかめた。
言われてみると、確かにそうだ。制圧時に朴本が不機嫌になったり、合理性を無視して暴れてくる時は、大体波多野と年の近い女性被害者と直接会った時だった。
「…言われてみると、確かに」
「テメェまで調子に乗るなよ月乃。そんな理由はねぇよ」
月乃が顎に手を当てて振り返ってると、朴本が不機嫌そうに言い放った。だが、波多野は楽しげに笑っていた。
「月乃はともかくとして、私はあなた以上に、あなたのことを分かってるという自負がありますよ?」
「やめろ気持ち悪い。テメェもいい年だろうが。いい加減俺にガキの頃みてぇな態度を取るんじゃねぇよ」
「ふふっ、はいはい」
SIRENの首領である波多野相手に、ここまで無遠慮に接することができるのは、朴本だけだ。下手をすると、どちらが上の立場に経ってる側なのかも分からなくなるほどだ。
それも、子供の頃からの付き合いがあるが故なのだろう。月乃は二人の下らないじゃれ合いのようなやりとりを見て、そんなことを考えていた。
「まぁ…今日はゆっくりお休みくださいね、朴本さん」
「言われなくともそうするつもりだ。テメェもあまり根を詰めすぎるんじゃねぇぞクソガキ」
朴本はおにぎりのゴミを握り潰すと、それを掴んだまま部屋を出ていった。その表情は、ずっと不機嫌なままだった。
ーーーだが、その声色からは、波多野への気遣いが見える。月乃は立ち去っていく朴本の背中を見て、そう感じた。
「…やれやれ。相変わらず素直ではないわね、朴本さんは」
書類を処理しながら、波多野はため息をつく。朴本のあの態度には、慣れたもののようで、その口からは特に不満も文句も出てこなかった。
「えぇ。確かに、素直ではありませんね」
「でしょう?」
「でも、やっぱりあなたには甘いですよ」
月乃が改めて感じたことを、ストレートに突きつけた。だが、波多野はやはり心当たりがないらしく、首を傾げていた。
「私には昔からああなんだけど…やっぱり、月乃を相手にしてる時とは、違ってるの?」
「私にはもっと荒っぽい接し方してきますよ」
「…朴本さんが荒っぽいのはデフォルトじゃないの?」
「いやそうではなく…」
「何なの…?」
「…まぁいいです」
ーーー無理だ。伝えようかとも思ったが、波多野の顔を見てあっさりと諦めた。
年の差だけ見ると、兄妹かもしれない。だが、この二人の間にあるのは、もっと強くて深い「何か」だ。今は、それを探るべきではない。
「さ、本日の事務処理を済ませましょう。私もお手伝いしますよ」
「あぁ、ありがとう。助かるわ」
月乃はさっさと、仕事に戻ることにした。
ーーー今宵も、SIRENの警鐘が鳴らされる準備が、整っていくのだった。




