SIRENの重戦車
「オラァッ!!」
司会者の男が、鉄棒を持って襲いかかってくる。その動きは、非常に直線的なものだ。何のひねりもない。朴本はその一撃を難なく回避する。
渾身の力で振り下ろされた鉄の棒は、ステージの床を破壊し、穴を開けた。ステージの床にも亀裂が走る。
裏社会で立ち回っているだけあり、司会者の男の腕力もそれなりにはあるようだ。
「…ほう」
比較的標準に近い司会者の体格からは予想できない腕力だ。朴本は思わず感嘆の声を漏らした。
だが、感心している暇もない。司会者の持っている鉄棒が、バウンドでもしたかのように、勢いよく朴本の顎めがけて跳ね上がってきた。
だが、その一振りは、難なく防御されてしまう。
否。防御のために突き出された朴本の腕に触れた瞬間、鉄棒がまるでスナック菓子のごとく、もろくへし折れてしまった。
「バカな…!鋼鉄の棒だぞ…!?」
武器が折れて、司会者が絶望している。だが、落ち着くのを待ってやるつもりはない。朴本は司会者の前で、拳を振りかぶる。
「言ったはずだ。警鐘を無視した結果、テメェらは災害に巻き込まれる。その報いを今、ここで受けろ」
朴本はそう言うと、思い切り振り下ろした。司会者は咄嗟に腕を交錯し、朴本の拳の直撃を止めようとする。
あれほどの腕力を持つ司会者ゆえ、通常ならば防がれてしまうのだろう。実際、朴本の拳も、司会者の腕の筋肉の前では、一瞬止まった。
ーーーだが、あくまでもほんの一瞬。次の瞬間には、朴本の拳が司会者の腕を完全に破壊し、振り抜かれてしまう。
「がぁっ!?」
司会者はそのまま、床に頭から叩きつけられてしまった。その腕は、完全に骨が砕けており、スライムのようにグニャグニャになってしまっていた。
「フン」
だが、そんな様子を見ても、朴本は鼻で笑うだけだった。そして、ステージにいる組員達に視線を向ける。その表情には、若干の怯えが見えた。
ーーー肝の小さい連中だ。司会者の命脈までは絶っていないあの一撃だけで、腰が引けてしまうとは。
本気で、そう思ってしまった。
朴本は乱雑にステージから降りる。大男である朴本が飛び降りた衝撃で、地面が軽く震えた。
「ッ…!!殺せ!!この理想主義者を殺すんだ!!」
その振動が、組員達に正気を取り戻させた。その手には刀剣や大口径の拳銃、果てはマシンガンを持った者までいた。
「…一人相手に、物騒なもん持ってやがるな…」
軍勢相手ならば、マシンガンも有効だろう。だが、朴本は一人でここに来ている。そんな状況なら、フレンドリーファイアの危険性が非常に高いことくらい、分からなかったのだろうか。
ーーーどうやら、今回の敵も例外なく、発想が単純極まりない。朴本は呆れたようにため息をついた。
「蜂の巣だ!!くたばれ!!」
大声と共に、組員の一人がマシンガンの引き金を引く。銃弾が撃ち出される。無数の弾が、朴本に襲いかかる。
いかにフィジカルが異常であっても、マシンガンに蜂の巣にされてはただでは済まないはず。
仮に避けられたとしても、この人数だ。逃すはずがないし、この人数から一斉攻撃されて、耐えられるはずもない。
「しゃらくせぇな、オイ…」
だが、朴本は弾幕を前にしても、冷静だった。その場から動くことなく、全身に力を込めた上で腕を交差し、防御の体勢をとった。
銃弾が、朴本の腕に無数に命中する。だが、その銃弾がスーツの下にある皮膚を破ることは、できなかった。
「な…っ…!?」
ーーーこれは、現実なのか。マシンガンを撃ち尽くした組員が、唖然とした様子でその光景を見つめている。
パラパラと、銃弾の残骸が落ちていく。その腕には、血痕すら滲んでいない。まさか、人体の腕の筋肉に、銃弾が負けたとでも言うのか。
拳銃を持った組員も、震えている。マシンガンの弾を相手にこれなら、拳銃の弾丸も通用しないであろう。
この男、一体どれ程の肉体を持っているというのか。組員達は一気に、恐怖に包まれてしまった。
「…さて…じゃあ次は俺のターンだな」
腕のホコリを払いながら、その怪物はゆっくりと敵の方へと近付いていった。




