戦闘開始
「あの…」
ステージ上で、未だに状況を理解できておらず、呆然としている女から、声をかけられる。
先程まで売られかけてたのに、いきなり客が逃げ出しだ。どういう状況なのか、まるで意味が分からない。
「商品が動くな!!」
すると、司会の男が拳を振り上げる。そこに、躊躇は欠片もなかった。
殴られる。だが、そう直感しても、女は手枷もつけられており、ただ瞼をギュッと閉じることしかできなかった。
だが、いくら待っても、予想していた衝撃は来ない。女は恐る恐る目を開いた。
「…え?」
先程、ステージに上がった大柄で強面な男。その男が、司会の腕を掴み、ひねり上げてる光景が目に入ってきた。
ますます、意味が分からない。この男は、一体何なのか。何が目的なのか。女は呆然と、その光景を見つめることしかできなかった。
「くそっ…!テメェ、放しやがれ!!」
「フン…」
朴本は司会の腕を力で抑え込んでいる。朴本に抑え込まれ、その腕は一ミリも動かせていないようだ。その差は、歴然だった。
だが、いつまでもそのままにしておくつもりもない。朴本はあっさり、司会の腕を放してやった。
「ぐっ…!!この野郎…!!」
「…この黒い手紙で、二度も警告したはずだ。見てねぇのか、テメェらは」
朴本は眼下にいる組員達にも目を向ける。だが、黒い手紙を見せても、組員達は鼻で笑うばかりだ。
ーーー見た上でこの反応か。だが、朴本には特に驚きもなかった。
「テメェらに振りかかる災害への警鐘は、サイレンはすでに鳴らされた。それを無視して、活動を継続したのはテメェら自身だ。ならば…」
朴本はそう言うと、背後にいる女性を一瞥する。
彼女もまさに、意志を奪われ続けた被害者の一人。しかも、波多野と同じくらいの年の女。
ーーーそんな女が被害者にされてること。なぜだか、それが余計に不愉快だった。
朴本はサングラス越しに司会者を、そして眼下にいる組員達を睨みつけた。
「…警鐘を無視して『災害』に巻き込まれることを、テメェらは自分で選んだんだ。その責任も、取ってもらうぞ…!」
朴本はそれだけ言うと、売り物にされかけた女性の手枷を乱暴に掴むと、それを引き千切った。手枷は錆びてて脆くなっており、破壊は容易であった。
「え…?」
「あんたは意志を奪われた側だ。災害に巻き込まれる理由はねぇ。引っ込んでろ」
朴本はそれだけ言うと、女性の返事も聞くことなく、司会者の方へと歩いていった。
だが、それでも組員達は嘲笑するのみだ。彼らも裏の人間だ、見た目だけなら迫力のある男など腐るほど見てきたのだろう。
「おいおい、正義気取りかよ!?この裏社会で、意志がどうのとか、綺麗事が通じるとでも!?」
「全くだ!!この社会は、力と金が正義だ!!弱い奴は餌に過ぎねぇよ!!」
その言葉が、朴本の耳に入る。
裏社会ではよく聞く理論ゆえ、さして怒りは沸かない。だが、彼らは根本的に勘違いをしている。
「…もう、テメェらの考えを聞く気はねぇ。その段階は、二度の警告を無視した時点で、過ぎ去ってんだよ…」
朴本はその場で、戦闘の構えを取る。
ーーーもう、話し合いの段階は終わっている。その雰囲気を感じ取ったのか、組員達が殺気立ち始めた。




