オークション破壊
人身売買組織の現場は、それなりの規模のコンベンション施設だった。
そこでは、まさに今オークションが行われているところだった。落札金額を大声で叫ぶ司会の声、オークションで競い合う客の騒がしい声等、様々なものが混ざった声が、建物の外にまで響いていた。
そんなオークション会場の駐車場に、一台の黒い車が止まる。その運転席には、使用人の格好をした女性が座っていた。
その車の後部座席から、サングラスをかけた朴本が姿を表した。
「少し待っていろ」
朴本はそれだけ声をかけると、オークション会場に視線を向ける。会場からは、落札金額を競うような声が聞こえてくる。
ーーー不愉快極まりない。朴本の眉間に、深くシワが寄る。
だが、ここでキレるのは早すぎる。まずは、現場を確認するところからだ。朴本は、着ている黒いスーツの襟や裾を整え、会場へと向かった。
中に入ると、そこに広がっていたのは、アイドルのライブ会場を彷彿とさせる熱気の中で行われる、人間という商品のオークションだった。
百名以上の観客を収めることができるイベントホールのようだが、その席は超満員であった。
ーーーすなわち、それだけ人の意志を軽んじる者がいる、ということだ。朴本の嫌悪感は、ますます強まっていった。
「さぁさぁ、皆さん!!続いての商品は、若い成人女性!!なんと彼女、家事代行業を営む女性!!単なる家政婦として扱うもよし、ペットとして飼うもよし、この体を貪るもよしの、三方良し!!一千万円からいきましょう!!」
ステージの上では、どこからか誘拐されてきたと思われる女性が、首輪と手枷をつけられて立っている。
ーーーあのクソガキと同い年くらいだろうか。朴本の頭の中に、波多野の顔がチラついた。
「…チッ…」
朴本は小さく舌打ちをした。だが、それを咎める者は誰もいなかった。
通常ならば、裏方に潜入して、裏から潰すのが定石だろう。だが、そんな面倒なことをやっていられるほど、朴本の気は長くなかった。
朴本は観客席のド真ん中を、堂々と歩く。意図したわけではないが、ヤクザのような見た目をした朴本を、不審がりながら見る者はいても、直接何かを言ってくる者はいなかった。
ーーー好都合だ。朴本は堂々と、ステージへと登壇した。
「な、何ですかあなた!?勝手に上がらないでいただきたい!!」
司会の男が文句を言ってくる。だが、当然のことだろう。現状では、オークションを乱す側にしか見えてないはずだ。
しかし、朴本は一切動じることはない。言葉を発することなく、胸ポケットからSIRENの黒い手紙を複数枚取り出し、放り投げた。
それを見た瞬間、司会の男の顔色が変わった。やはり、心当たりがあるようだ。
「ふ、不届き者だ!!皆の者、出てこい!!」
司会の男が、マイク越しでも分かるほどに焦った声色で叫ぶ。マイクがハウリングを起こし、不愉快な高音が出力された。
それと同時に、会場がパニックに陥る。百人を超える客が一斉に逃げ出そうとしたのだから、無理もない。だが、そんな観客達に、朴本は冷徹に宣告した。
「金を使って人間買おうとしたのはテメェらの意志ゆえ、俺が直ちにここでどうこうするつもりはねぇ。だが、俺も証拠無しでこんなとこに来てるわけじゃねぇからな…」
朴本はそう言うと、ばら撒いた黒い手紙を一枚拾う。漆黒の手紙は、明るい会場で、非常に目立つであろう。嫌でも、客達の視線が集まってくる。
SIRENという組織を売り込みに来たわけではないが、この黒い封筒の噂が流れることそのものは歓迎だった。
「…早急に、テメェらが今まで買った人間を解放しろ。金は、意志を奪う材料じゃねぇよ。そうしなけりゃ、この黒い手紙が、テメェらのとこに届くだろうよ」
パニックに陥り、逃げ惑う客達に、どこまで言葉が聞こえたかは分からない。それでも、言うべきことは言った。
客が引いていくと同時に、ターゲットとしている組織の組員達が、ステージの下へ集まってきたようだ。どうやら、ここからが本番らしい。
サングラス越しに、朴本はそこを見下ろすのだった。




