6. 家族会議
一晩ゆっくりと休んだおかげか、アルフォンスの顔色は昨日よりも明らかに良くなっていた。医師の見立てどおり熱も完全に下がり、歩く足取りもしっかりしている。まだ無理は禁物ではあるものの、少なくとも屋敷の中を移動する程度なら問題ないところまで回復していた。
朝食を終えたあと、二人は一階の居間へ移っていた。
大きな窓から差し込む朝の陽光が室内を柔らかく照らしている。普段なら紅茶を片手に穏やかな時間を過ごす場所だったが、今日ばかりはどこか張り詰めた空気が漂っていた。
向かい合って腰を下ろしたヴィオラは、静かにアルフォンスを見つめる。
「アルフォンス、分かっているわね?」
「あ、あぁ……」
アルフォンスは思わず背筋を伸ばいた。
昨日、自分の口で「仕事の役割分担を考えよう」と約束したのだ。もちろん逃げるつもりはない。
それでも、目の前のヴィオラから漂う妙な迫力に、アルフォンスは小さく息をのんだ。
ヴィオラは一度小さく頷くと、膝の上で両手を重ね、ゆっくりと口を開いた。感情だけで話を進めるつもりはない。昨日のうちに考えを整理し、自分なりに何が問題なのかを何度も考えてきた。その結論を、今日はきちんとアルフォンスへ伝えるつもりだった。
「さて、状況を整理しましょう」
その口調は穏やかだったが、どこか会議の進行役のようでもあった。
「今問題になっているのは、あなたが過労で倒れてしまうことなの。私はどうにかして、あなたの負担を減らしたいのよ」
アルフォンスは少しだけ視線を泳がせる。
「えっと……寝込んでいる時に君が手伝ってくれた書類だけでも、だいぶ助かったけど……?」
彼としては素直な感謝のつもりだった。
実際、ヴィオラが書類仕事を引き受けてくれたおかげで、療養中にもかかわらず焦りは随分と和らいでいた。もしあの数日間、一切仕事が進んでいなければ、復帰後の負担はさらに大きくなっていただろう。
しかし、ヴィオラは静かに首を横へ振る。
「でも、それだけで、あなたの仕事はどれだけ軽くなったの?」
アルフォンスは返事ができなかった。
それは積み上がった仕事の一角が少し崩れただけにすぎなかったから。
仕事場へ足を運べば、新しい書類は今日も机の上に積まれているだろう。領地からの報告、王宮からの通達、そして誰かから持ち込まれる新たな相談事。終わった仕事の分だけ、また新しい仕事が増えていく。
根本的な解決には、まったくなっていなかった。
ヴィオラは、そんな彼を見つめながら昨日から考えていた結論を口にする。
話を聞いていて気づいたのだ。
アルフォンスの仕事が増え続ける原因は、仕事の多さだけではない。
彼は、人から頼まれると断れない。
自分で抱えられるかどうかよりも、まず相手を優先してしまう。そのお人好しな性格こそが、彼自身を少しずつ追い詰めていたのである。
「とは言っても、頼まれた仕事は断りづらいからなぁ……」
アルフォンスは困ったように眉を下げた。
相手にも事情があると思えば、簡単には突き放せない。自分が少し無理をするだけで済むのならと考え、つい引き受けてしまうのだろう。その結果が今回の過労なのだから、ヴィオラとしては見過ごすわけにはいかなかった。
「そうね……」
ヴィオラは腕を組み、しばらく考え込んだ。
アルフォンス本人に断らせようとしても、おそらく同じことを繰り返す。ならば、そもそも彼のところへ仕事が直接持ち込まれないようにすればよい。
ふと一つの考えが浮かび、ヴィオラはぱっと顔を上げた。
「それに関しては、私に任せてちょうだい。考えがあるわ」




