2. 見栄を張った数日後……
しかし、アルフォンスの見栄を張った宣言は、一週間も持たなかった。
初日には王宮へ持っていくはずの書類を屋敷に置き忘れ、二日目には昼食を取る時間を逃した。三日目には同じ時間に二つの予定を入れていたことに直前まで気づかず、先方へ謝罪の手紙を書くことになった。それでもアルフォンスは、自分一人で問題なくできていると言い張った。
これまでヴィオラが確認していた予定や書類にまで自分で目を通そうとすれば、当然ながら仕事を終える時間は遅くなる。夜更けまで執務室へ籠もり、翌朝はいつもと変わらない時間に起きる。食事もろくに取らず、疲れを誤魔化すために濃い茶ばかりを飲んでいた。
四日目には目の下に隈ができ、五日目には何度も同じ書類を読み返すようになった。それでも休もうとしなかった結果、六日目の朝、とうとう寝台から起き上がれなくなった。
挙げ句の果てに、過労で寝込んでしまったのである。
ヴィオラが寝室を訪れた時、アルフォンスは熱に浮かされながら天井を見つめていた。医師の診察によれば、数日間きちんと休めば回復するという。しかし、無理を続ければ長引くとも厳しく言い渡されていた。
「悪かった、ヴィオラ。君の言った通りだったよ。浅はかだった」
弱々しく謝るアルフォンスを前に、ヴィオラはふんと鼻を鳴らした。
「だから言ったでしょう。無理をしてはいけないって。あなたは仕事を始めると、食事も休むことも忘れてしまうんだから、誰かが止めなければ駄目なのよ」
言いたいことはまだ残っていた。ヴィオラは寝台のそばに置かれた椅子へ腰を下ろし、アルフォンスの目を真っ直ぐに見つめた。
「私、あなたが何もできない足手まといだなんて、少しも思っていないからね。あなたにはあなたのするべきことがあって、私には私のするべきことがあるの。だから、私が手を貸すことを厄介だなんて思わないこと。分かった?」
アルフォンスは素直に頷きかけたが、何かを思い出したように掛け布へ手をついた。
「待ってくれ。今日中に確認しなければならない書類があるんだ。このまま寝ているわけには――」
無理に起き上がろうとするアルフォンスの肩を、ヴィオラは両手で押し戻した。力の入らないアルフォンスの身体は、あっさりと寝台へ沈んでいく。
「今日は安静にしていなさい。あなたの机にあった仕事は、重要書類に関わるもの以外、全部片づけておいたから。残ったものも、今日中に確認する必要はないと執事に聞いています。元気になってから、確認して頂戴」
「そこまで済ませたのか。まったく……君には敵わないな」
「本当よ、もう!少しくらい私の言うことを聞いて、早く寝てください」
ヴィオラはアルフォンスの掛け布を整えると、熱の残る額へそっと口づけた。
そのまま寝室を出ていこうとすると、背後から小さな声で礼を言われた。ヴィオラは足を止めたものの、振り返りはしなかった。
今さら素直に返事をするのは、少しだけ癪だった。
それでも彼女の口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。




