見知ったもの
遅くなりました。
1〜5話、一部の言い換えや表現の変更、誤字の訂正
6〜10話、平均、約1000文字程度追加。一部言い換えや表現の変更。
日が傾いた、この紅く染まった空が好き。1日の終わりで、夕日がとても綺麗だから。
また明日。そんなセリフが聞こえてくるよう。
「待たせたわね」
「大丈夫だよ」
傾いて影を伸ばす夕焼けが、有希ちゃんの真っ白な髪を紅く染めていた。
光を受けて淡く輝くその髪が、とても幻想的に見えた。
顔を撫でる風が、1週間前と比べてほのかに暖かくて、季節の移り変わりを感じた。
校門をくぐって住宅街を歩く。
小学生くらいの子供の楽しげな声が聞こえて、見慣れた公園を見ると4、5人の子供がボールを蹴って走り回っている。
一目見てから視線を前に戻すと、こちらも中学生くらいの男の子と女の子が肩を並べて気まずそうに歩いていた。
「楽しそうですね」
「青春だねぇ」
有希ちゃんの足元にボールが転がってきた。
ボールを持ち上げて、あまり飛ばなかったけれど、有希ちゃんは子供達にボールを投げた。
ありがとう、と元気な声が聞こえた。
商店街に入る。
時代に沿わず活気のあるこの商店街は、晩御飯の買い物に来ている主婦や、駄菓子を片手に話す子供達で賑わっていた。魚屋の威勢のいい声と、どこかから流れてくる演歌が混ざって、夕方の商店街独特の音になっていた。
商店街に入って6つ目の店。
いつものカフェはOPENの小さな看板を扉に掛けていた。
開くと、カランと小さな鈴の音がした。
こんにちは、と挨拶をすると、いらっしゃい、といつもの声が返ってくる。
ただいつもと違ったのは、その声の他に「いらっしゃいませ」と少し低い声があったことだった。
「新しいバイトの人ですか?」
「ええ。忙しい時間帯だと提供が遅れてしまいますから」
新しく入ったというそのバイトの子は、私達と同じくらいか、少し若く見える金髪の子。
「もしかして貴女、少し前に会わなかったかしら」
「……? あ、お前あの時の」
その子は有希ちゃんと会ったことがあるようで、丁寧な言葉遣いが砕けていた。
「知り合い?」
「ええ、これを取ってくれた人」
そう言って有希ちゃんは鞄についたアザラシのストラップを見せた。
そうなんだ、と金髪の子を見る。
金色の髪は首ほどの長さで、右側だけ少し長く伸ばしている。
白いシャツに黒いエプロン、銀色のリングピアスをつけていて、人によってはキツイ目付きと思われるような顔立ちだった。
「榊さん、常連の方よ」
マスターはそう言って、挨拶するようにと目配せしているように見えた。
「榊千寿、です。よろしく、お願いします」
千寿と名乗った少女は目を泳がせながら軽く会釈した。
「私は衝羽根幸。よろしくね」
「私は芥子未雛よ」
「有希。綾瀬有希。よろしく」
各々名乗ると、有希ちゃんの名前にだけ少し反応していた。
私達の注文を取ると、榊さんが業務に戻る。
他のお客さんの注文を取って、テーブルを拭いていた。
マスターが、サイフォンに挽いた珈琲の豆を入れて専用の小さなコンロに置く。
少し前に、マスターから聞いた浸透式の珈琲の入れ方。
沸騰してぶくぶくとしてくると、上部のロートに溜まって、珈琲になって下部のフラスコに落ちていく。
まるで理科の実験をしているような面白い器具に、有希ちゃんも不思議そうに見ていた。
コポコポと小さな音がして、珈琲の香りが漂ってくる。
十分ほどした頃、お待たせしました、とテーブルに珈琲が置かれた。
濾紙を使ったドリップ珈琲より、私はこっちの方が好きだ。苦味が少なくて、香りが華やかだから。
有希ちゃんと雛ちゃんが注文した珈琲はどうやら違うようで、ドリップ珈琲を頼んだみたい。
苦味が強くて苦手なのだが、2人はその苦味が好きみたい。
珈琲が提供されて間もなく、同時に注文したケーキが置かれた。
「ね、2人ともどれにする?」
並べられたケーキはどれも美味しそうで、どれを食べるか迷ってしまう。
オススメスイーツ盛り合わせで届いたスイーツは3種類、私達三人分。
シフォンケーキ、リンゴタルト、ミルクレープ。
「私はこれにしようかしら」
最初に選んだのは有希ちゃん。リンゴタルトを自分の皿に移していた。
雛ちゃんの方を見ると、先にどうぞと皿を私の方に寄せて微笑んでいる。
なら遠慮なく、と私はミルクレープを選んだ。
雛ちゃんは山のような生クリームの乗ったシフォンケーキを皿に移して、フォークを手に取っていた。
「おいしい」
雛ちゃんがそう言うと、有希ちゃんがタルトに手を伸ばした。
私もミルクレープをフォークで切り分けて食べる。
「甘い〜」
「ええ。ほんのりと酸味があって美味しいわね」
会話が弾む。
昨日見たテレビ番組の話だったり、今日あったことだったり。
食べ進める度に珈琲が減っていく。
温度が低くなる度、酸味が増えていく。
私はコーヒーが好きだ。
入れ方や温度によって味が、香りが変わるから。
一口目が苦くても、最後の一口はほんのりとした酸味が口を満たす。
気がつくと榊さんがこちらのテーブルの前に来ていた。
「追加のお水、どうぞ」
ポットで水を注いで、テーブルを一度見渡して立ち去ろうとする。
有希ちゃんが、ありがとう、と声をかけると、一瞬だけ足が止まってから軽く頷いて業務に戻っていった。
「仲良くなれそう?」
私が聞くと、有希ちゃんは少し考えてから答えた。
「どうかしら。でも、悪い人では無さそうね」
有希ちゃんの洞察力は高い。有希ちゃんが初めて会う人間をそう評するのだから、きっとそういう人なのだろう。
日が沈んで、窓から入る光がなくなる頃。
ふと時計を見ると、針は19時を指していた。
「もうこんな時間!」
そう言うと、雛ちゃんは腕時計を見て同じ反応をした。
有希ちゃんも、スマホを見て連絡アプリを開いていた。
「それじゃぁお開きにしましょう」
有希ちゃんはカップを置いて、迎えが来るからもう少し待つと言った。
「うん、それじゃぁまた明日」
「有希さん、また明日」
また明日、と微笑む有希ちゃんの目はどこか楽しげに見えた。
それが堪らなく嬉しくて、鼻歌を歌いながら帰路を辿る。
後ろから通っていく自転車がいて、聞かれていないかと少しだけ恥ずかしくなった。




