柔らかなもの
体育の時間、私は必然的に見学だった。
適度な運動とは、多少歩く程度を指し、体育でするような激しい運動は心臓に負担をかける。
身体測定の時も、記録を付ける手伝いをしていた。
意外と、見るのも退屈ではない。
毎日、変わらない風景を見ていたから、動きのある試合を見るのは目に新しい。
今日はテニスをしている。
その中でも、雛は一際目立つ。大会常連、とまでは行かないが、全国大会に複数回出場しているテニス部員と互角に張り合っている。
「お疲れ様、惜しかったわね」
「ええ、あと少しでした」
結局雛は負けてしまったが、接戦を演じていた。
タオルを渡すと、雛はありがとうと会釈して受け取る。
正直、雛の様に思いきり運動をしてみたくない、といえば嘘になる。
しかし、この身体が許さない。
学校という場所はかくして、私を興味の渦に引き込む。
汗を流すことはどんな感覚なのだろうか。
大きく腕を振り、思い切り地面を蹴る感覚は。
また試合の合図が鳴り、スコアボードをひとつ捲った。
昼休み。弁当を持ち寄り、雑談を交わしながら箸を進める
「そういえば、この前幸の言っていたモールに行ってみたわ」
先週、休日の過ごし方を幸に聞いた。
モールに行き、服を眺めたり、カフェに入ったり、ゲームセンターで時間を潰す。
どれも時間が過ぎるのが早く感じた。
「どうだった?」
「楽しかったわ」
それは良かったと幸は笑う。
「そういえば、クレーンゲームで苦戦してたら金髪の子が代わりに取ってくれたの」
「へぇ、どんな物取ってくれたの?」
「少し待ってて」
机に鞄を取りに行く。
鞄のチャックに付けた少し大きめのキーホルダーを、これよ。と言って皆に見せる。
それは、最近人気なミニキャラだった。
「え、かわいい!お揃いだね」
アザラシがモチーフで、幸のスマホに小さな物がぶら下がっている。
「よかったわね」
「ええ」
幸が手触りのいいふわふわのキーホルダーを触り続けていた。
浚えた弁当箱を鞄の中に仕舞い、幸に置いてくるわと一声かけて鞄を机に持っていく。
幸は少し名残惜しそうにしていた。
「それで、有希は他に何をしたんだ?」
使用人を連れて、どこを回ったか思い出す。
「服屋や雑貨屋を見て回ったわ」
特に何も買わなかった。けれど目新しい物や見慣れない奇怪な物が多く、少し目を回した。
「服屋で突然話しかけられた時は少し驚いたわ」
「営業だからね」
「大変なのね」
ふと時計を見るとチャイムがなる数分前を指していた。
また後でと一声かけて席に戻る。
昼食後の薬を数錠飲むと、チャイムが鳴った。
英語の授業は少し苦手だ。読めるが、話せない。
ペアワーク等も多く、発音ができなくてよく相手を困らせてしまう。
今日も言葉が詰まってしまった。
授業が終わり、放課後になる。
放課後、部活に入っていない私は、何をするでもなく家に帰る。けれど家は学園から車で20分ほどかかる。
歩くには少し辛い距離で、父様の仕事が終わるまで図書室で時間潰している。
「今日、お茶行きませんか?」
そう声をかけてきたのは雛と幸だった。
「良いわよ」
「やった!じゃあいつもの場所ね」
「わかったわ。少し待っててもらえる?」
そう言って私は理事長室に向かった。
「失礼します」
ノックをして、どうぞと声を聞いて入る。
書類を広げて判を押す父様が座っていた。
背後には大きな窓が、少し傾いた陽射しを取り込んでいる。
「有希、どうしたんだ?」
父様は書類から顔を上げて、微笑んでそう言う。
「父様、少しお茶して来るので、少し遅くなります」
「それくらい直接じゃなくて、メールでいいんだぞ」
席を立った父様は私の近くに来て言う。
「せっかく同じ場所にいるのだから、少しくらいお話してもいいでしょう?」
そう言うと、父様は何も言わず私の頭を撫でた。
父の手に力が入っていて、少し痛かったが、今までの嫌な痛みとは違った。
「6時頃に仕事が終わるから、迎えに行こう」
「わかったわ。場所は後で連絡するわね」
父様が頷くと私は踵を返して扉に向かう。
「気をつけてな」
私は、ありがとう。と返して部屋を出た。
たまに、表現を変えたり少し追加したりなど、前の話を少しいじることがあります。あしからず




