第99話 討伐の報告
マグナに掛けられた鏡像魔法は、セトによって解かれた。
原理はわかっている。
目を合わせて脳内の動きを読み、幻覚を見せる箇所の特定とその上書き。
「……まさか、こんな……」
幻覚が解けたマグナが見た光景は、連れてきた武官の大半が怪我を負い、意識のない者も転がっている地獄絵図だった。
「あれは……」
奥で黒焦げになり、煙を上げているモノ。
もう動かないそれを、ソルダがさらに斬り刻んでいた。
「あれが、哀願のマチスでした」
マグナに声をかけたセトが、横に立って黒焦げのモノを指差した。
「しかし、哀願のマチスは討伐されたと……」
「リュード様に化けていたようです。報告は嘘でしょう」
「そんな………」
マグナは鏡像魔法によってマールの姿を見せられていた。
その間に起きたのは惨劇。
マグナはそれを報告しなければならない。
「坊っちゃん、報告に上がるときは、共に来ていただきたい」
マグナは肩を落として怪我人の収容を手伝った。
その夜、船はエスクアの港に戻ってきた。
船の中でも治療は継続されたが、意識が戻らない者が二名いた。
死者は幸いにしていなかったが、その二名を含めて、計24名が治療院に搬送されることが決まった。
マグナとセト、セトの従者二人は、軽症ということもあって、そのまま教会に報告に上がる。
「夜半の報告にも関わらず、ご拝顔に賜り──」
「いらん。カーン司教、何があった?」
ファーゴ大司教は夜にも関わらず、報告を受けるために教会にいた。
マグナの挨拶は途中で遮られ、報告をするように言う。
マグナはゴクリと喉を鳴らす。
「西の島の祭壇について、重大な報告がございます。祭壇の御子として役目に就いていたリュード様は既に亡く、九従者の一人、哀願のマチスが成り代わっておりました」
その報告にファーゴは目を見開いた。
「どういうことだ。リュードからマチスは討伐したと……報告が……」
「それについては、後ろに控えるウォルカ助祭より、詳細を語らせます」
マグナの後ろで跪いていたセトが話し始める。
「リュード様は12年前に亡くなられたと推測しております。祭壇にいたのは、哀願のマチスに間違いございません」
「では、リュードに化けていた、ということか?」
「左様にございます」
「何を根拠にして、お前はそう推測する?」
「最期、私はマチスに鏡像魔法を使い、会いたい人物を問いました。その答えは、クイル。弟だと」
ファーゴは右手で口元を押さえた。
「クイル様は予言者の一人だ。聖者なのだ。マチスが兄だということは、秘中の秘。それでは……」
「はい。空に穴が開いた日、リュード様はマチスに敗れ、マチスはリュード様に成り代わった。そしてマチス討伐の報告を偽証した、ということであろうと推測致します」
ファーゴは後ろを向き、何か考えを巡らせている。
講壇の灯りがユラユラと揺れ、ファーゴの影もその心情を表すかのように揺れていた。
「討伐は、成ったか?」
しばらくしてファーゴは、背を向けたまま問いかけた。
そこでセトが答えようとするところを、マグナが制して答える。
「ウォルカ助祭とその従者二名により、哀願のマチスは討伐されております」
「その証拠は?」
「焼け焦げている上に斬り刻まれておりますが、教会地下に運び込んでおります。いつでも確認していただけます」
ファーゴはまだ背を向けたままだ。
時折頭をゆっくり上に向け、なにか考えているようだ。
「被害状況は?」
この問いかけに、マグナはハーレイとソルダを指名する。
「オクスウェン副助祭、被害者の内訳を述べよ」
「はい。まず死者はいません。次に被害者は合計24名。内訳は軽傷者17名、重傷者五名、重体二名。重体の者の傷は重く、一人は恐らく二度と腰より下が動かないかと。もう一人は右腕及び右脚を現地にて切断しております」
「ストークス侍祭、被害者の搬送状況は?」
「重体の者を優先して治療院に搬送しております。重傷であっても自力で歩ける者もおりますが、大事をとって全員護送しております」
一拍置いて、マグナが追加で話を始めた。
「重傷者は回復次第でございますが、重体については、武官としてお仕えすることは二度とできないかと存じます」
その言葉にセトは拳を握りしめた。
そして、つい口に出してしまった。
「俺のせいです。思わず無茶をしました。責任は俺にあります」
その言葉は余計だった。
特に、この報告という場では殊更必要のない自責だった。
「セト・ウォルカ!思い上がるな!責任という言葉は!それを背負う者が口にする言葉だ!お前にその資格は、まだない!」
それはマグナによる叱責だった。
この場の責任者はマグナなのだ。
「カーン司教、やめよ。声を荒げるな」
ファーゴはマグナに声をかける。
その表情は、なにかを決めたような、そんな表情だった。
「あとはこちらで決めることだ。全員下がれ」
その日の報告はこれで終わった。
セトは宿に戻る道中で、ずっとマグナの言葉を考えていた。
(責任を背負うか……罪悪感として、ではなく責任として……)
その意味を理解するのは、まだまだ先になりそうだ。




