↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─へネス教国─
98/140

第98話 哀願のマチス



兵士は何も答えない。

最後の願いは、聞けない。


「どうして、なにも言ってくれないんだ」


セトにはどうしていいのかわからない。


「責めるなら、責めてくれよ。最後まで。俺はそれでもいいんだ」


セトは兵士の目を見た。

あの最後の表情は未だに忘れられない。

その表情のまま、兵士はセトを今も見ていた。


「見せてくれ。あなたの願いを」


セトは兵士に鏡像魔法を使う。

だが、何もない。

なんの記憶も願いも読み取れない。


「死者だから、か」


セトはそう言ったが、頭の中では違うことを考えていた。


今まで彼が言った言葉は……

俺がずっと考えていたことじゃないか?

それを言っていただけ?


「………そういうことか」


セトは拳を握った。


「すまない」


その拳で兵士の顔を殴った。


「答えは………最初からなかった」


兵士はガラスが砕けるように消えていく。


「どうか、あなたはこの先もずっと、俺の罪悪感であってくれ」


兵士の姿が消えた。

罪が消えたわけではない。

ただ、ここで彼に問い続けるわけには行かない。

ここに答えはない。


世界が切り替わるように、元の建物の中に移り替わる。

そこには、セトを覗き込むようなマチスの顔があった。


「おや?」


マチスがセトの様子に気がつくや否や、セトはマチスに風刃を放った。

真空波のような風刃はマチスに避けられたが、建物に穴を空けた。


「やれやれ。破られましたか。仕方ないですね」


マチスの身体がドクンと跳ねる。


「坊っちゃん!」


ハーレイはセトを掴んで、マチスから距離を取った。


「死ね!」


ソルダが全力でマチスに向かって剣を振り下ろす。


ガギン!


剣はマチスに当たった。

しかし、金属音のような高い音を立てて弾かれた。


ビクビクと脈を打つマチスの身体は、赤黒く変色していく。

顔の皮膚が裂け、その下から新たな顔がメリメリと出てくる。


マチスの顔は三個になった。

正面の顔の右目は、左の顔の左目。

逆も同じ。

目は四つ、鼻と口は三つずつ。

腕はヤツメウナギのような触手に変わり、ガチガチと歯を鳴らしている。

体は首まで硬い鱗に覆われ、光を反射した。


「簡単に死んでやれんのだ。俺にもやることがある」


風切音を立てて触手が動き回る。

それは建物の壁を壊し、外にいる武官たちを捕食していく。


グギャ……バギィ……


触手に喰われた武官たちの身体が、暴れる触手によって残った壁や天井に打ち付けられる。


「うわぁぁぁぁ!!」

「化け物だぁ!!」


外の武官たちはパニックになって逃げ出す。

その足を掬うように触手が伸びる。


「マグナさん!!」


セトは未だに硬直するマグナを引きずって建物の外に出た。


「ハーレイ!怪我人の手当てをしろ!」

「了解!」


セトの指示でハーレイが動き出す。


「坊っちゃん!こいつ!口は切れる!」


触手を剣の刃で受けたソルダは、その剣先に血がついているのを見つけた。


口は切れる。

内部は生物の構造の可能性があるか……


セトは一瞬考えてソルダに指示を出す。


「ソルダ!道具だ!投げろ!」


それはソルダの服の中に忍ばせていた棒クナイ。


「すまん……狙える的がないんだ」


セトは喰われている最中の武官たちに向かって風を吹かせる。

その風に乗ってクナイが飛び、武官たちの体に突き刺さった。


「ハーレイ!できるだけ助けてやってくれ!」


セトの雷撃がクナイに向かって放たれる。

避雷針と化したクナイに落ちた雷撃は、武官たちを巻き込みながら、マチスの体内を駆け巡る。

マチスの三つの口、触手それぞれの口がガチガチと音を立てる。


セトは武官たちの様子を見た。

筋肉が硬直しているのだろう。

意識があるかどうかまではわからない。

だが、触手に喰われ続ければ、いずれ助からなくなる。


「ハーレイ!頼むぞ!」


武官たちを引きずり出し、治療にあたるハーレイは、一人当たり数秒ほど確認だけをしていく。


「坊っちゃん!無茶しすぎだ!」


全員を同時に治療することはできない。

ハーレイは負傷者の状態を見極め、治療魔法を駆使して、少しでも多くの命を救おうとしていた。


雷撃が止み、武官たちが次々に引きずり出されていく中、マチスもヌチャリと音を立てて立ち上がる。


「舐めるな……小僧……」


マチスはセトを見た。

だが、セトもマチスを見ていた。


「お前の会いたい人は誰だ?」


セトの問いに、マチスは答えない。

三つの顔が、セトを見つめていた。

その口からは、何の言葉も出てこなかった。


「ソルダ、こいつの首を落とす。鱗以外なら恐らく刃物が通る。手伝ってくれ」

「え?」

「こいつは今一番会いたい奴に会っている。今のうちだ」

「……ああ。はいよ」


ソルダはマチスの鱗と肌の境目を斬り、そのまま頭部を斬り落とした。

頭は鱗で覆っていなかった。

そして武官が触手から離されたのを確認した後、身体にもう一度電流が流され、そのまま燃やされた。


従者たちの体は融合魔法のせいで、通常の生体構造ではない。

セトは用心深く、マチスの体が燃えるのを見届けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。