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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─へネス教国─
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第97話 二人の哀願

第97話 二人の哀願



ソルダの剣撃は全て空を切った。

ソルダが遅いのではないはずだ。

マチスがソルダ以上に速いのだ。


「ソルダ!お前へなちょこか!?」


ハーレイがセトを介抱しながら叫ぶ。


(クソが!誰がへなちょこだ。腐れ治癒師め)


ソルダはもう一度マチスに斬りかかる。

しかし何度も繰り出す剣撃は、一度もマチスに傷をつけることはなかった。


「もういいか?」


マチスが剣をかわした次の瞬間、火球がいくつもソルダへ飛んだ。


「──ッ!」


火球が連続して炸裂する。

ソルダの身体が浮き、そのまま壁へ叩きつけられた。


ドカン!


建物全体に衝撃音が響いた。


「非常事態か!!」


外にいた武官たちが突入してくるが、建物は全員が入り切るには狭すぎる。


「邪魔だ」


ドン!ドン!


マチスは火球を入り口に密集していた武官たちに放った。

入り口から外へと武官が一人、また一人とふっ飛ばされていく。


「くそ!」


ソルダが立ち上がり、マチスに斬りかかった。


「お前、やっぱり馬鹿だろう?」


マチスはソルダの目を見ていた。


その時、セトはまだあの兵士から視線を離せずにいた。


「すまない」


あの時、過反応した爆薬を投げ込んだ時の言葉だ。


「あのとき、あなたは何を最後に言おうとしたんだ?」


その問いかけに兵士は答えない。


「教えてくれないか?」


兵士は俯いたままだ。


「申し訳なかった。せめて、最後の言葉を聞かせてほしい」


兵士は何も言わない。


答えられないのだ。

セトの記憶にないから。

セトの懊悩の中にその答えがない。

再生すべき事柄がないことには、対応できない。


マチスの哀願は希望、願望、欲望を継ぎ接ぎにしてセリフを作る。

最も相応しいセリフを囁く。

だが、答えのない問いには、なにも答えられない。


「助かりたかったのか?」

「やめてほしいだったのか?」


何を言っても兵士の答えはなかった。


「なんとか言ってくれよ!!」


セトの叫びはセトにしか聞こえない。



ソルダはマチスに魅入られた。

目の前に現れたのは、家族でもなく、一人の女性。

リニオ帝国が侵攻してくるまで、妻として共に暮らしていた女性。

戦争が始まり、リニオによって殺された妻。


「ヴァイオラ……」


ソルダは妻の名を呼ぶ。


「ソルダ……あなたは……どうして、生きてるの?」


かつてそう問われた時の答えは決まっていた。


「お前のためだ」


それが決まり文句だった。

そして妻は決まってこう切り返した。


「じゃあ、私が死んだら?」


もうソルダには、その問いの答えはない。

彼女は、戦争で死んでしまった。


「悪い。ヴァイオラ。戦士として坊っちゃんの前に立ちたい。坊っちゃんの見る世界を見たいんだ」


ソルダは剣を構えた。


「お前は死んだ。それは覆らない。だが、会えてよかった」


ソルダの剣がヴァイオラを斬り裂く。

鏡が割れるようにヴァイオラが消えていく。


「墓参りには行く。少し待っててくれ」


ソルダの目の前で、マチスがセトを眺めていた。


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