第96話 見せる者
「マール様……」
マグナはその一言を呟き、動かない。
「マグナさん!」
セトは立ち上がって、マグナの肩を揺するが、マグナはリュードを見たまま、固まっている。
「今、ちょうど最も会いたい人に会っているところだ。邪魔をしてやるな」
リュードの言葉に、思わずセトはリュードを見た。
リュードもセトを見ていた。
「お前には、最も会いたくない者を会わせてやろう」
セトの目の前に現れたのは、戦争の際に自らが殺した兵士。
逃がす時間が足りず、敵ごと爆風によって殺した、あの兵士だ。
「さぁ、苛まされろ」
セトは目の前の兵士から目が離せなかった。
『なぜ、助けてくれなかった……』
『他にできることはあっただろう……』
『鬼畜め……人殺しめ……』
兵士は囁きながらセトに近づいてくる。
『それで英雄を気取るか……』
『貴様は卑怯だ……』
『人を、味方を殺しておいて、救った人数が多ければ英雄なのか……』
兵士の言葉は途切れない。
『100人殺した殺人鬼が、戦場で10万人殺せば英雄なのか?』
『貴様は、ただの人殺しだ……』
『そしてこれからも……ただの人殺しだ……』
ガタン!
セトは思わず後ずさった。
椅子が倒れ、セトもその場に倒れ込む。
「坊っちゃん!」
ハーレイとソルダは理由もわからず、セトの体を支えた。
二人がリュードから意識を離した隙に、リュードは立ち上がった。
「マグナとセト、この二人は堕ちた。あとは貴様ら二人だ」
「どういう意味だ!」
ソルダが腰に佩びた剣に手をかける。
「私はマチス。哀願のマチス。さぁ、お前たちにも見せてやろう。乞うてみよ。誰に会いたい?」
ハーレイはセトの状態を確認するが、体に傷などはない。
(哀願のマチス?従者ってことは、こりゃ鏡像魔法からのもんだろうな。坊っちゃんが自身がどうにかするしかない)
セトは恐怖とも言えないような表情で、後ろに下がろうとしている。
「ハーレイ!坊っちゃんはどうなってる!」
ソルダはセトを守るように前に出た。
「わからん!けど、なんかを見てる!」
その様子にマチスはクスクスと笑う。
「彼には最も会いたくない者を見せた。恐らくは、兵士だろうか?誰かを背負った兵士だ」
ソルダは舌打ちした。
目の前で見ていたからだ。
ハーレイも理解した。
あの場でセトに決断を迫ったからだ。
「坊っちゃんの決断を否定するか!」
ソルダがマチスに叫んだ。
「否定しているのは私ではない。セト自身だ」
マチスはクスクスと笑った。
ソルダは剣を握り締めた。
あの時、自分はセトに決断を迫る側にいた。
それ以外できなかった。
坊っちゃんが決断するのを、ただ見ていることしかできなかった。
あの判断が正しかったのかどうかなど、ソルダにもわからない。
だが、今さらそれを責めることに何の意味がある。
あの時、坊っちゃんは決断した。
そして今も、その決断を背負っている。
「……貴様に、坊っちゃんの何がわかる」
「何もわからぬさ。私はただ、本人が最も目を背けたいものを見せているだけだ」
マチスは笑みを深めた。
「それでも、本人には十分だろう?」
ソルダは身体強化をして剣を抜いた。
「殺す」
だが、一般人には見えないであろう速さの剣速をもってしても、マチスは全て避ける。
「我らが鏡像魔法だけで生き延びて来たと思うなよ。馬鹿ども」
マチスはソルダの剣を避けながら、不敵に笑った。




