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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─へネス教国─
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第95話 兄弟の確執



魔物が現れた頃、我らはそれを魔物と認識できなかった。

ただの害獣だと思った。


原初の命に感謝し、日々の糧を得ていただけだ。

弟は信仰を重んじ、ラメントなる男について行ってしまった。

救世主となる英雄の訪れ、それを願って原初の命に祈るのだそうだ。


「くだらない」


俺も最初はそう思った。

しかし天変地異が続き、ただでさえ作物がなくなった街に魔物が押し寄せると、皆ラメントの言う救世主の訪れを願った。


「クイル!」


俺はラメントの横に立つ弟、クイルを呼んだ。


「兄さん!救世主が現れた!」


クイルは嬉しそうに叫んでいた。

そのクイルの指差す先には、四人の人物が並んでいた。


ピアネ様、メイビス様、フィリス様、カスティア様の四名。


魔物たちは悉く打ち払われた。

人々は英雄たちに感謝した。

ある者は世界を導く英雄と言い、ある者は神が遣わした聖者と言い、ある者は新たなる神の訪れと言った。


そして魔素の環境をもとに戻そうという運動も起きた。

頭の良い奴らが集まって、環境を元に戻すと息巻いている。

しかしその運動も結局は私利私欲に塗れ、いつしか責任のなすりつけ合いのようになった。

ある国は他国のせいだと言い、またある国は過去に存在した国のせいだと言い出す。

堂々巡りの議論を重ねるだけで、環境は元に戻るはずなどないのに。


そうしている間に、魔物たちは戻ってきた。

奴らは時が経つに連れて魔素の多い環境に順応し、より強力な生物へと短期間で変化していた。


魔法を使う魔物まで現れ、また高い魔素を効率良く消費するために大型化する魔物もいた。

新たな魔物に対抗するため、英雄たちは魔物と融合し、その力を得ながら戦った。

その姿は確かに人ではなかった。

生物と呼ぶにはあまりにも不自然な身体だった。


だが、その行動は英雄そのものだった。


「あれは危険だ」


私はラメントの言うことが信じられなかった。

ラメントは英雄たちを指差してそう言ったのだ。

生活を取り戻そうと必死に戦う英雄達を、「危険」と言い放った。


クイルもラメントに同調した。

バージに至っては、ピアネ様の夫であるにも関わらず、ラメントを支持した。


「卑怯者ども」


私は彼らの考えが理解できなかった。

彼らは我らのために身を削ったのだ。

そしてその身に魔物の力を宿したのだ。

人の心を無くしたのはどっちだ?

英雄たちこそが「人」であり、お前たちは体が人であるだけで、心は「魔物」と同じではないのか?


「封印など間違いだ!」


私は英雄たちの封印に反対した。

私のように反対する者は極めて稀だった。

指差し数えられる程度の数しかいない。


「英雄を封印すれば、必ず後悔することになるぞ!」


私の言葉に耳を傾ける者はいなかった。

英雄四人は、全員既に人とは呼べない姿だった。

初めて見たならば忌避する気持ちもわからなくもない。

だが、それでも彼らは世界を救った英雄なのだ。


そして私たちは英雄たちとともに亜空間に閉じ込められた。


戻ってみると4000年が経っていた。

なんとも呆気ない話だ。


クイルは既に死んでいる。

そしてラメントも死んでいる。


ラメントもクイルも教会の予言者として崇められているではないか。


「あんな卑怯者どもが予言者?ふざけているのか?」


祭壇に堕ちた私は、御子を名乗る男の身体を取り込んだ。

融合したのだ。

皮をかぶり、リュードとなる。


「ここから。この祭壇から世界を観測する役目か」


都合が良かった。

英雄たちを見て、そしてここから世界を書き換える。


「俺が、卑怯者が作った世界を元に戻す」


これは俺の使命だ。

これが英雄の従者マチスの成すべきことなのだ。


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