第94話 リュードの言い分
夜に出た船は夜明けとともに西の島に着いた。
夜漁の船にとって、教会の船が武官を乗せて夜中に航行しているのは、異常事態に思えたはずだ。
「坊っちゃん、しばらく休みます。坊っちゃんの回復を待って祭壇に向かいます」
マグナは船からセトを降ろし、木陰で休ませる。
「詳細を、教えてください」
セトはマグナに、今回の調査の詳細を確認する。
移動中に確認できなかったからだ。
「詳細、というか警戒すべき事態ということですね。既にお伝えしているように、祭壇については教会でも一部の者しか知らない秘匿です」
「はい。前に触れ回るな、と言ってましたね」
「そうです。それは教会内でも同じ。祭壇に関わるのはごく一部です。たとえ祭壇の御子であっても、他の祭壇の御子の名を知る機会は皆無と言えます。さらに、その活動について知るなどあり得ません」
(やべぇ……マクレランでちょこちょこ言ってた……)
セトとハーレイは気まずい目線を合わせた。
「巫女同士は、本来お互いに知らないのが普通なのです。それをリュード様は知っていた」
「どこで、それを得たのか?その調査、というとこですか?」
「まさしく、その確認のための調査です」
(俺たちのことは黙っておこう……)
とりあえずリュードのことは脇に置き、セトとハーレイは同じことを考えていた。
セトが回復したのは昼前。
そしてそこから長い階段を登り、太陽が中天から少し動いた頃に祭壇についた。
「坊っちゃん、今回は前回と違ってただの来訪ではありません。気を引き締めてください」
マグナが先頭に立ち、門をくぐる。
ハーレイとソルダがセトに話しかけてきた。
「坊っちゃん、どういうことだと思う?」
「重大な秘匿って言っても、ここまでやるのか?」
セトは考えを巡らせる。
「情報の出どころ……まぁ、誰も話していないのなら、最悪の可能性まで考慮したんじゃないか?」
最悪の可能性。
従者二人はそれでハッと気がついた。
「道具はある。注意事項は?」
「目を見るな」
ソルダの確認に、ハーレイが答えた。
「九従者だった場合、視線を合わせるな」
「わかった。俺はそいつらに会ったことがないからな。気を引き締めよう」
そんなハーレイとソルダの会話を聞きながら、セトはリュードのいるであろう建物に向かった。
武官を外に控えさせ、建物にはマグナがまず入り、次いでセト、セトの従者二名の順に入る。
「リュード様、突然の再訪となりますが、ご容赦ください」
マグナは挨拶もそこそこに本題に入りたい様子だ。
「いえ、結構ですよ。こちらとしても中々外の人と話す機会は得られませんから。どうぞ、掛けてください」
リュードは前回と同じように、椅子に座るように言った。
マグナとセトが椅子に座る。
従者二名は前回と同じ場所に立つ。
それを確認して、リュードは話し出した。
「今回は、ずいぶん大人数のようですが、いかがしましたか?」
リュードの話し方、雰囲気は前回と変わらない。
「外に控えた人数がわかりますか?」
「なんとなく雰囲気で伝わりますよ。正確な人数はわかりませんけどね」
「なるほど」
「今回はあまりにも威圧的ではありませんか?」
「威圧的?」
「私は祭壇の御子、その立場と役目をあなたは理解していますか?」
マグナはその言葉に一旦黙った。
だが、リュードの目を見て、ハッキリ言った。
「単刀直入に申し上げます。ストラス山の巫女の御名前、どなたがあなたに教えたのですか?」
「ストラス山?マールさんのことですか?」
「そうです。私はあなたの前で、その御名前を口に出していません」
「他の方でしたかね?」
「教会から派遣された記録に、あなたが役目に就いて以降、私以外がこちらに出向いた履歴はありません」
「では、あなたが私に教えたのでしょう」
「いいえ、話していません」
「それと禁呪について。ウォルカ助祭が受け継いだことをどなたから聞きましたか?」
「…………」
リュードが黙る。
そこでセトが話に割って入る。
「リュード様、鏡像魔法は使えますよね?」
「もちろんです。受け継いでおりますよ」
「では、使いましたか?」
セトはリュードの目を見ない。
「いいえ。……まさか、あなたの記憶を読んだと?」
「違います。僕ではありません。マグナさんの記憶を読んだのでは?」
「そんな……言い掛かりでしょう」
「状況的に考えて、それ以外に知る方法はないと思いますが?」
「無礼だろう!」
リュードの口調が変わった。
「あなた方の主人は!このように言っているが、後ろの二人はどう思っているんですか?」
話を振られたハーレイとソルダは、口をつぐんだまま、目を合わせない。
「二人には目を合わせるなと言ってあります。無礼な質問なのは承知しています。しかし、現在こちらで確認できる記録から考えるに、それが最も妥当と考えられるのです」
セトとリュードのやり取りを、マグナは呆然と見ていた。
(鏡像魔法は四英雄たちに対抗するための手段として継承されたもの。それを教会に向けて使うだと?それはもはや………)
「リュード様、もしも今坊っちゃんが仰ったことが事実なら、それは敵意と見なされますが……いかがですか?」
リュードは椅子にもたれた。
そして大きく息を吐いて、マグナを見た。
「敵意など、ありませんよ」
そう言った直後、マグナの目は見開かれた。
「マール様………」
マグナはそう呟くと、その場で硬直したように動かなくなった。




