第93話 調査の下命
マグナは馬を走らせ、北の街オルタンに到着した。
へネス教国にありながら歓楽街を抱えるこの街は、教国の他の街とは異なり、煌びやかな雰囲気に包まれている。
「歓楽街だな」
一言呟いたマグナは、他のなににも目をくれずに歓楽街を目指した。
そこは街の北西の外れにある。
海に面してはいるが、塀に囲われた一角。
中に入るにも身分の確認が必要になる。
それは聖職者であっても同じだ。
夕暮れ時に到着したマグナは、夜の帳が落ちる直前に歓楽街の入り口についた。
「身分証は?」
門番に言われて教会のものを見せる。
「人を探している。11歳の子どもだ。大人二人と中に入らなかったか?」
「知らんな」
門番の回答は素っ気ない。
マグナ自身も簡単に答えるとは思っていなかった。
この中は未成年であっても入れる。
しっかりとした身分証さえあればいいのだ。
(探すか……)
中に入ったマグナの目に入ってきたのは、ガヤガヤと賑わう街と行き交う人々。
店の前に女性が立ち、道行く男性客に声をかけている。
(この街は相変わらずだな)
歩きながら視線で客たちの様子を観察し、ハーレイやソルダを探している。
(あれは……)
そこで見つけたのは、昨日の船乗り。
(奴に聞いてみるか)
マグナはその船乗りの肩に手を置き、声をかけた。
「すまない。ちょっと聞きたいんだが」
「ああ?なんだ?」
「昨日は助かった。船に乗せてもらっただろう?」
「…………あんた、教会の?」
「そうだ。坊っちゃんと連れ二人を探してる。見てないか?」
「あー。それならあっちだ」
船乗りの指さす方向を見る。
そこには今まさに店からスッキリした顔で出てきたハーレイとソルダがいた。
ニタニタと笑みを浮かべ、鼻歌を歌っているように見えた。
「貴様ら!!」
マグナが怒りの表情で二人に近づいていく。
その声にハーレイとソルダは一瞬で固まった。
「坊っちゃんはどこだ!?」
マグナの勢いに、ハーレイが反射的に向かいの店を指差す。
「あっちの店です」
指さした先は飯屋。
その中でちんまりと座っている。
その周りには若い店員や、おそらく他の店の従業員だろう女性がおり、セトに話しかけているようだ。
マグナは従者二人を引きずりながら飯屋に入り、セトのもとに向かう。
「坊っちゃん、何をしているんですか!」
「何って、ハーレイとソルダの息抜きを……」
マグナはハーレイとソルダを見た。
その表情は憤怒という言葉がよく似合う。
セトはそう思った。
「坊っちゃんがね、行きたいって……」
「ほら、坊ちゃんだって楽しそう……」
二人はそれぞれ言い訳をする。
チラチラとセトを見ながら言う姿に、セトは苦笑いするしかない。
そのセトの様子を見たマグナが叫ぶように言う。
「言ってないだろう!!」
その一喝で二人は黙るしかない。
もはや万事休すとばかりに、ハーレイとソルダは正座しようとした。
だが、マグナは二人を立たせる。
「説教はあとだ。坊っちゃん、今日中にエスクアに戻りますよ。言伝があります」
マグナはセトに告げた。
言伝……
言い難いことなのだろうというのは、予想ができた。
「わかりました。二人とも、戻るぞ」
セトの言葉で二人はしょんぼりとしながら歓楽街を出る。
「急ぎ戻ります。西の島の祭壇の調査が下命されました」
オルタンを出たマグナは口数少なく、それだけ告げた。
「祭壇ですか?」
「正確にはリュード様、ですね」
「どういうことですか?」
「わからないから、向かうのです」
「明日の朝ですか?」
「今からです」
既に辺りは暗い。
「坊っちゃんは船酔いします。朝向かったのでは、回復を待つ時間が惜しい。今から向かいます」
セトはうんざりする気持ちでエスクアに向かった。
夜のうちに船に乗り込み、夜の航海に出る。
船員に加えて教会から30名の武官。
その船出は異様の一言に尽きた。
ハーレイとソルダは船の上でマグナの説教を受けることになった。
西の島に着くまでの間ずっと。
そしてセトは案の定船酔いした。




