第92話 小さな違和感
第92話 小さな違和感
エスクアに戻ったマグナは、その足で教会に向かった。
目的はファーゴ大司教に拝謁し、誰がマールの名を伝えたのか、そして禁呪の件を漏らしたのかを確かめるためだ。
(私は今回の船旅にあたり、教会の船の手配と、紹介のために祭壇に向かう許可を得た。その記録はファーゴ様に確認すればわかる)
問題はその次。
(記録は残されているはずだ。誰も禁呪を坊っちゃんが習得したことを話していない場合、大きな問題になる)
「ファーゴ大司教。日暮れにも関わらずご拝顔を賜りまして恐縮でございます」
マグナは急ぎファーゴに確認を願う。
「本日西の島の祭壇に伺いましたところ、御子リュード様より、ストラス山の先代マール様の名と、それに続けてセト・ウォルカが禁呪を継承したことが告げられました。過去、リュード様にマール様の名を教えた者が存在したか、そして禁呪の継承に関して話した者が存在したのか、確認のためにお伺いに参った次第でございます」
その言葉にファーゴの顔色が変わる。
「………それは、ない。そもそもストラス山は現在に至るまで辺境の地。その地の巫女の名をあえて他の祭壇の御子に告げるなど、必要のないことだ。そしてセト・ウォルカという特殊な存在のために、禁呪の継承も許可したに過ぎん。異界人の知識という特殊な事案に対する対処だ。記録は確認するが、あり得ぬことだ」
ファーゴはそれだけ言うと、部屋をあとにした。
(何かがおかしい……どうなってる?)
マグナの違和感は消えない。
翌日、マグナはファーゴに呼び出された。
「昨日の報告により、記録を確認した。リュードが御子の役目を拝命して13年になるが、その間に他の祭壇の情報を得たのは一度だけだ」
それはマグナにも心当たりはある。
四年前に各祭壇を回り、封印が破られたあとの情報を共有していたときのものだ。
「四年前のことでしょうか?」
「そうだ。あのとき、ストラス山にも向かったな?あのときのことだ。リュードのもとに向かったのもお前だったな?お前以外には祭壇に出入りした記録はない」
マールに対して、他の祭壇の情報を渡したとき。
その時にマグナは北の五基のうち、現存する二基を回った。
それが西の島とストラス山だった。
「あのとき、私はどちらの祭壇でも、他の祭壇の役目にあたる方の名は出しておりません」
「そうだろうな。祭壇に向かう許可の申請そのものがされておらん」
「はい。しておりません」
「それであれば、なぜリュードは知っていた?」
そのファーゴの問いにマグナは答えられない。
「お前が口を滑らせたとは思えん。調べる必要がある」
「はい。本日中に──」
「ウォルカを連れていけ。お前一人ではなく、ある程度の人数を連れ出せ。万が一ということがある。揃い次第向かえ。数日要すのであれば、それは構わぬ。万全を期し、対応せよ」
「……承知致しました」
その翌日、マグナはセトの泊まっている宿を訪ねた。
「今日はもう出かけられましたよ。何でもオルタンに向かうとかで」
宿の受付でその話を聞いたマグナは、怒りを覚えた。
(未成年を歓楽街で連れ回すか。破戒どもめ)
ハーレイの素行不良は今に始まったことではない。
だが、そこにソルダが加わり、セトを振り回していた。
(あの馬鹿ども。調査に行く前に灸を据えねばならん)
マグナは額に青筋を立てながら、馬に跨ってオルタンを目指した。




