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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─へネス教国─
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第91話 祭壇の御子



案内された建物は、簡素な造りのものだった。

生活スペースの横に応接スペースがあるような、簡単な造り。


「狭いですけどね、どうぞお掛けになってください」


とりあえず座る位置を気にしてみるが、上座下座など、この世界にあるのだろうか?


「従者の方もどうぞ」


そうは言われても、ハーレイとソルダはこのような場面で椅子に腰掛けるなど、この世界の常識としてはあり得ない。

主人が座る後ろに立って控えるものだ。


「まぁ、いいでしょう。とりあえずカーン司教はそちら、ウォルカ助祭はそちらにどうぞ」


なかなか座らない彼らに対して、リュードが席を指定して座るように言う。

そこまで言われて初めて彼らは椅子に腰掛けた。


「突然の来訪にも関わらず、ご拝顔を賜りまして、感謝を申し上げます」


まずはマグナがリュードに感謝を述べた。


「いえ、いいんですよ。こちらとしてもね、人が訪ねてくることなんてほとんどありませんから。人と話す機会は大切にしています」


そのリュードの言葉にセトも頭を下げる。


「今日は、ただの観光ということでもないんでしょう?この地は本来は禁足地。教会関係者でも一部のものしか入れません」

「はい。本日は、こちらのウォルカ殿たっての願いでございます」

「そうでしたか。それで、ウォルカ助祭。どのような用向きで?」


水を向けられたセトは、若干緊張気味に答えた。


「現存する祭壇のうち、ストラス山以外のものが近くにあると聞きました。どのような場所かこの目で見てみたい、という興味といいますか……」


リュードはセトの言葉に対して、顎に手を当て、少し考えてから話し始めた。


「なるほど。あなたがどこまで祭壇に関して知っているかわかりませんが、ここでお話しましょうか」

「よろしくお願いします」


セトはリュードに再び頭を下げて、教えを乞う。


「まず、祭壇が英雄たちの監視装置なのは知っていますね?」

「はい。封印の状態を観測し、英雄たちを監視するもの、と聞いています」

「その通りです。そして、その役目を持つのが、御子や巫女の存在。さらに封印が破られた際の迎撃としての役割も持ちます」


(ここまでは知ってる内容だ)


「13基ある祭壇にそれぞれ常に一名がつきます。それぞれの祭壇の御子が、先代より継承の儀式を経て、現在に至るまでの歴史と記録、禁呪を引き継ぎます」


セトは頷いて聞いている。

ここまではマールから教えてもらった内容と一致している。


「祭壇は教会の中では特殊な場所です。多くは禁足地になっています。用が無ければ立ち寄ることもない場所です。そして私たち御子も特殊な立場。世を離れた立場に置かれます」


(これもなんとなく知ってる。マールさんがそうだった)


「封印が破られた後も、その役目や立場は変わりません。我らは秩序の根幹なんですよ」

「どういうことでしょう?」

「四英雄の真実がどうであれ、現在の生活はその神話に基づく基盤がある。だからこそ、そこを揺るがさないように私たちの役目にも変化はないのです」


(昨日の、嘘を守れという話か……)


「ただし、もう封印は全て破られていますからね。我々の役目は封印の監視というより、この世界の秩序維持のための監視装置としての役割になりますがね」


セトはアメリアのことを考えていた。

確かに封印が破られた今現在において、その封印を監視する祭壇にいる意味は薄いはずだ。

だが、それでも役目がある、と言うことは、リュードの言ったことが教会の意思なのだろう。

そう予測した。


「つまり、パフォーマンス、ということですか?」


その言葉にリュードは目を丸くし、笑った。

マグナは驚いた表情でセトを見ている。

従者たちの表情は見えないが、きっとマグナと同じリアクションだろう。


「いや、違う。パフォーマンスとは違うのだよ。私たちはね、男なら御子、女なら巫女として役目につく。そしてその秩序の根幹を担う者として役目を与えられる。つまり、封印の有り無しに関わらず役目は必要になるんだ」


ひとしきり笑ったあとにリュードは答えた。


「ここまでハッキリと物を言うのは悪いことじゃない。だが、時には弁えた方がいいこともある。人を見て態度を変えることを覚えたほうが身のためだよ」


リュードはセトにそう諭した。


「いやいや。面白い子だ。マールさんがこの子に禁呪を託したのも頷ける」


リュードは何か納得したように言いながら席を立ち、建物のドアを開ける。


「祭壇を見ていきますか?」


そして祭壇を案内されて、その日のうちに船でエスクアに戻った。

セトは再び船酔いに苦しみ、ハーレイは介抱をする。


「坊っちゃん!オルタンに行くんじゃないのか!?」


ハーレイとソルダはセトの回復待ちだが、もうこの日のうちにセトが回復することはないだろう。


その横でマグナは顎に手を当てて考えていた。


(なぜ?リュード様はマール様の名を知っていた?祭壇の名は知っていても、各祭壇は直接連絡をする手段はない。外部情報として巫女の名が伝わることはない。知る術はないはずだ。坊っちゃんのことは助祭としての立場で紹介する必要があった。だが、当代アメリア様の名は伏せた。それに禁呪のこと。なぜ知っている?あの祭壇に向かうには許可がいる。私以外に誰が行くことがある?役目を与えられるのは私だけのはず。許可など………あったか?)


マグナだけが一人難しい顔をしていた。


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