第90話 西の島の祭壇
セトたちは島に到着した翌日から、祭壇を目指した。
到着した直後に船酔いしたため、日が落ちるまで足止めされたのだ。
「すみませんでした」
セトは全員に頭を下げた。
ハーレイやソルダ、マグナだけでなく、日帰りで帰れると思っていた船の船員たちにもだ。
セトはまだ成人していない。
11歳という歳で全員に頭を下げる姿に、誰もなにも言わずにいた。
「坊っちゃん!オルタンの歓楽街で奢ってくださいね!」
ハーレイだけは、金をせびって来た。
オルタンはへネス教国の聖都エスクアから北に行った街だ。
歓楽街があり、酒はもちろん性風俗もあり、夜になると雰囲気の変わる不夜城でもある。
「わかった」
じとーっとした目でセトはハーレイを見る。
山崎の知識でどのような場所か、おおよその検討はつく。
「じゃ俺も」
ソルダが手をあげ、船乗りの幾人かも名乗り出る始末。
教会から助祭として得る給金は足りるだろうか……
セトの不安はそっちだった。
「くだらないことを言ってないで、登りましょうか」
マグナがその会話を区切り、後方の階段を指差す。
この島は切り立った西側に断崖、東側は緩やかな傾斜になっており、西側の断崖の先端に祭壇がある。
「ここは最も古くに設置された祭壇と言われています。全ての祭壇は、この祭壇を元に作られたとされています」
マグナは祭壇についての説明を始める。
「南の大陸に最も近い祭壇になりますので、ここが最初の祭壇だったのではないかと考えられています」
階段は長い。
特に集落などのない島。
景色は変わらない。
いくら緩やかな傾斜に作られた階段とはいえ、登山と呼ぶに等しい距離を歩く必要がある。
「エスカレーター、使っていいですか?」
「ダメです」
「なぜでしょう?」
「この島は先ほど言った通り、最初の祭壇の島。魔法なども含めて、改変や開発は禁止されています」
文化財としての価値なのだろうか……
観光地でもないだろうし、そうする意味は不明だ。
やがて山頂につき、そこから祭壇までは平坦な道が続く。
門のようなモチーフをくぐり、その中に入ると、セトはグッと雰囲気が変わるのを感じた。
それはストラス山の祭壇で感じたようなものとは違い、もう少し違うなんとも言えないものだった。
「祭壇ってどこも独特の雰囲気があるんですか?」
セトの質問にマグナは苦笑する。
「どの祭壇も、その祭壇独自の雰囲気はあると思います。何となく、としか表現できませんがね」
辺りを見渡していると、奥の建物から一人の男性が歩いてきた。
「これは。ご無沙汰しております。カーン司教」
男性はマグナに声をかけ、挨拶をする。
「お役目の多忙の折に参り、大変申し訳ございません。リュード様」
マグナはその場に跪いて挨拶した。
「いえ、かまいませんよ。そちらの後ろの子は?」
セトがどうしていいかわからず立っていたが、気がつくとハーレイもソルダも跪いている。
「こちらにおりますのが、セト・ウォルカ。ストラス山の当代の巫女の弟にして、先代より一部のお役目を引き継いでおられる者にございます」
「なるほど。ということは、彼が英雄たちを?」
「左様にございます」
リュードと呼ばれた男性は、セトに近づいて来た。
「はじめまして。私はリュード。祭壇の御子として役目を得たときに家名は捨てました。どうぞ、リュードと呼んでください」
微笑んで名乗ったリュードに対し、セトは跪いて挨拶をする。
「先日、助祭の位を頂きました、セト・ウォルカでございます」
うんうん、と頷くように返事をしたリュードは、四人を建物の中に案内する。
「どうぞ、中で話しましょうか」
その建物の先に祭壇があった。
ストラス山は山肌をくり抜いて作ったような造りだったが、ここでは祭壇がそのまま崖に設置されているのが見えた。
「気になりますか?あなたはストラス山のものを見たことがあるでしょう?同じものですよ」
リュードはそう言って、建物の中に四人を招き入れた。




