第88話 帰還者たちの動向
第88話 帰還者たちの動向
「北の五基以外の西と東は、別の方の管理なんですか?」
セトはふと思ったことを質問した。
「そうなる。西は海に浮かぶ三つの孤島にそれぞれあった。東は魔族の領土や、その先の山岳地帯、獣人の住む地域に設置された」
「そうなると、南の大陸から等距離に点在する、というわけではないのですね?」
「そうだ。人以外の治める地域にも設置されているため、空に穴が開いてから、調査報告がまとまるまでに七年を要したのだ」
セトが生まれた年に空に穴が開いた。
セトが七歳の時にアシュレイがやってきた。
その後、マールが大司教からの言伝として、ストラス山以外の祭壇の様子を聞いているのを一緒に聞いた。
「承知しました。それで、討ち滅ぼしたのは、何体と記録されていますか?」
「こちらで確認できているのは、
・迷妄のカンセン
・哀願のマチス
・予言のアシュレイ
・幻惑のヒスイ
・侵蝕のキセム
この五体という記録だ」
(つまり、四英雄を含めて、残り八体)
「四英雄のうち三体は、居場所がある程度把握できている」
「どういうことでしょう?」
「四英雄のうち、天柱……いや、お前の場合は違うな。表向きではなく、こちらでの呼び名が相応しいか。
・報復のピアネ
リニオ帝国べルック近海の小島に帰還し祭壇を破壊。
その後対岸の港街べルックを破壊。
リニオ帝国では天神の帰還として神聖視され、以後神として祀られる。
・宿痾のメイビス
東の魔族領と獣人領の境にある山岳地帯に帰還。
非常に高い山が連なる地域での帰還であり、破壊神のように暴れ回り、現在は大地を震わせる地神として畏怖の対象にされている。
・怨讐のフィリス
西の海の孤島に帰還。
祭壇を破壊し、南の大陸を目指して移動したとされる。
その海を移動する姿は、船団を一息に飲み込む海神を思わせた、と報告される。
・誅戮のカスティア
北東の奥地、雪と氷に覆われた大地に帰還したとされる。
ただし、ここは人がまだ国として治めて間もない場所。
リニオの北東端に近く、詳細は不明。
祭壇の破壊後に移動したと考えられる。
状況は、こんなものだ」
(リニオのべルック?リニオ唯一の不凍港と習った。それなら今やってる戦争は……リニオによる海の奪取ということか)
「従者たちの動向は?」
セトは四英雄がわかるなら従者も、と考えて質問した。
「わからんのだ。奴らは人に化ける。紛れてしまえばわからんのだよ」
確かにヒスイはマクレラン王妃に化けていた。
キセムはサファン・クロネに化けていた。
「なるほど……探すしかない、ということですか」
「そうなる。奴らが生きている。それだけで教会にとっては不都合なのだ」
不都合……
ああ、なるほど、従者も含めて4000年間隠してきたことが覆される可能性があるからか。
「俺は従者と呼ばれる者たちが、実は封印に反対しただけの一般人と聞きました。事実ですか?」
セトは気になったことを聞く。
ファーゴ大司教は難しい顔になるが、正直に答えた。
「概ね事実だ。だが、一般人を巻き込んだとは言えん。従者として付き従い共に去った、ということにしたのだ。そして英雄とは違い、従者たちの名前の記録がないのもそれが理由だ」
(記録を残してはいけないこと、だからか)
「4000年たっても人はなにも変わっていない、ということですか……」
セトのその言葉にファーゴ大司教は何も答えられない。
(結局どこまでいっても人の都合か)
セトの巻き込まれた渦は、エゴの塊の渦のように思えた。




