第87話 13基の祭壇
オルゴ枢機卿の話が終わり、部屋をあとにしたセトと従者たち。
そこにマグナが声を掛ける。
「坊っちゃん、こちらに」
促されるまま向かったのは、昨日入った部屋。
そこには昨日と同じようにファーゴ大司教がいた。
挨拶をして中に入り、大司教の前に跪く。
「いや、跪かず、こっちへ」
部屋の奥、テーブルと椅子が置かれた応接間のような部屋。
部屋は大きくはないが、やはり調度品や家具類は高級そうなものだ。
「セト、掛けなさい」
その高そうな椅子に座るように言われるが、本当に座っていいのかわからない。
そんな世間知らずの田舎者の様子を見て、ファーゴ大司教は苦笑した。
「いいから、そこに座れ。話ができん」
セトは恐る恐る椅子に座る。
だが、場違いというか、普段慣れていない居心地の悪さがあった。
「さて、枢機卿から話があっただろうが、理解はできたかね?」
テーブルに肘を置き、ファーゴ大司教がセトに向けて話を始めた。
「英雄の神話は覆さない。ただし、英雄が帰還しているのは容認できないから討伐せよ。そういう内容と理解しました」
その余所余所しくもハッキリ答えるセトの様子に、ファーゴ大司教は満足気に頷く。
「よろしい。それでは本題だ。お前は祭壇についてある程度知っている。そうだろう?」
「はい」
「では、なぜ祭壇が13基、人の住まう近くに設置されたかも知っているか?」
確かに、考えてみるとおかしい。
セトが知っている情報では、祭壇はそれぞれが英雄たちの封印を監視、観測する装置。
そして祭壇の巫女と合わせて、有事の際に英雄たちを各個迎撃するものだ。
「わかりません」
それなら普通は人の住んでいない地域に造るべきだ。
「そうだろうな。まず前提が違うんだ。祭壇が造られたとき、その地域は人が住んでいないか、住んでいたとしても極少数の辺境だった」
「どういうことでしょう?」
「まず古代文明というのはな、ここから南の海の先にある大陸で起こったものなのだ。4000年前、人の文明の中心は南の大陸だ。今住んでいる地域ではないのだよ」
南の大陸。
養成院で世界地図の大まかなものは学んだ。
ただし、地図そのものの詳細図は国家機密扱い。
セトはこの世界の大陸の配置が、山崎の知識により現代地球と似通っていることを思い出し、南の大陸をアフリカ大陸のようなものだろうと予測した。
「南の大陸で興った古代文明は、魔素環境を改変して破壊した。その結果、魔物を生み出し、それを英雄たちが打ち払った。しかし、魔素環境は戻らなかったのだ」
これは神話に語られる話のあと、つまり歴史の部分なのだろう。
「古代文明は魔素環境の改善を試みたが、その全ては意味をなさなかった。やがて人は南の大陸を離れたのだ」
「そうして、当初辺境と思われた地域にも人が進出した、ということですか?」
「そうなるな」
そこでファーゴ大司教は言葉を区切り、セトの顔を覗き込むように見る。
その目は、何かを確認するようなものだった。
「祭壇が設置された場所は13ヶ所。北に五基。東に五基。西に三基。それらの呼称は全て南の古代文明を中心とした呼び方だ」
「ファーゴ大司教様は、北の五基の管理とおっしゃいましたね?」
「そうだ。マクレラン、オブリオン、リニオ西部、そしてこのヘネス教国。この四カ国に五基の祭壇が設置されている。それが私の管轄だ」
(そのうちの一つがストラス山だった、ということか)
「13基の祭壇のうち、破壊を免れて現存するのは三基だ。そのうちの一つは、ストラス山、そしてもう一つがここへネス教国にある」
「前に、破壊された10基は英雄たちを討てなかったと伺いました」
「そういう解釈でいる、というのが正確なところだ。封印が破られたとき、祭壇の巫女は戦った。だから破壊されている、巫女が傷つき命を落としたということは、逃げられたと解釈したのだ」
(なるほど。確実に討ち滅ぼした証拠そのものをもって三体の討滅と言ったわけではないのか)
セトは破壊された10基よりも、現存する三基の祭壇のほうが気になった。
ストラス山に堕ちたアシュレイはマールが討った。
もう一体、ヒスイはマクレラン王国で。
キセムは自らの手で。
九従者のうち、三体は目の間で討っている。
(確実なのは、それだけか)
それがセトの感覚だった。




