第85話 教会の都合
宿に入ったセトとハーレイ、ソルダの三人。
マグナは宿の入り口で、教会に戻ると言って行ってしまった。
用意された部屋は広く、一目にして高級というのがわかる造りだ。
「これ、ヤバくないか?」
セトの中の山崎の知識が警鐘を鳴らす。
「何がですか?」
ハーレイはフカフカのベッドに飛び込み、セトの言葉によくわからない様子で言った。
ソルダもベッドに腰掛けながら考えている。
「いや、なんていうか、過剰だ」
それがセトの警戒する理由だった。
「そうですね。優遇、と言えばいいのか?何か、ここまでする理由がわからないですね」
ソルダも疑問に思っているようだ。
そんな二人に対してハーレイは呑気に言う。
「優遇してくれるなら、素直に受け取ればいいんです。こんな待遇普通はあり得ないんですからぁ。今はそれでいいんです」
そのハーレイの様子にセトもソルダも納得できない。
イビキをかいて寝るハーレイを横目に、セトとソルダの話し合いは続いた。
「俺はそこまで優遇されるほどのことをしたか?」
セトの問いにソルダが首を横にする。
「いえ、確かに従軍はしましたが、それはマクレラン王国の指示によるもの。教会絡みでないはず」
戦争……
その言葉に、セトの表情が一瞬強張る。
「そうだな。教会という意味では、あとは、禁呪を習得したが、それが原因か?」
「禁呪ですか?それであれば、監視対象でしょう?優遇する意味がありません」
答えが出ないまま、夜は更けていく。
一方、教会に戻ったマグナは、再びファーゴ大司教のもとを訪ねていた。
「マグナ・カーン、罷り越しました」
跪いて挨拶をするマグナ。
「楽にせよ。今後の話がある」
それに応じるように、ファーゴ大司教が話し出した。
「彼ら、特にセトについてだが、今後はお前の庇護の外に出る」
「と、いいますと?」
「明日は洗礼の後、枢機卿がお出でになる」
「まさか……」
「当然のことだ。祭壇の巫女に関することだ。私よりも枢機卿の実務だ」
「そうなると………なるほど」
マグナは一瞬だけ考え、納得した表情になる。
「理解できたか?」
「はい」
「彼らを抱き込む。そして、使う」
「そういうことですね」
マグナは少し寂しそうな表情になる。
「武官と言えど、表情に気をつけろと言っているだろう?お前とマールの関係は知っている。ともに同じ故郷、同じ司祭に学んだこともある姉弟弟子の関係だったな」
「はい」
「その姉弟子から託された子だ。気になるのもわかる。だが、この決定は覆らん」
「存じております」
「それならばいい。庇護下を離れると言っても関わるなというものではない。頼ってきたら、助けてやれ」
「ありがとうございます」
マールから託された子、セト。
それはマグナにとって、甥などと同じ。
(どうか、多難のうちの一つでも私が……)
それがマグナの願いだ。
セトは教会に所属する。
マグナは教会所属の武官の身だが、大司教からの指示を受ける立場のため、教会としての位は司教だ。
その立場上教義から婚姻などは認められない。
(アメリア様とともに、坊っちゃんは私の身内だ)
それがマグナの本心だ。




