第83話 聖都エスクア
マグナと合流して聖都を目指した一行は、その15日後に到着した。
「坊っちゃんが大変だと思って急ぎましたからね。馬を二頭潰しました」
あっけらかんと、笑って言うマグナには感謝しかなかった。
「あと、祭壇の巫女に関しては、教会でも上層部と一部しか知らない秘匿になります。あまり触れ回らないようお願いします」
「マクレラン王国で、少しだけ口に出してしまいました。しかし、誰も知らない様子でした」
「それはそうでしょう。一般には知られてはいけないことですから」
道中ではこのような注意もあった。
そしてセト自身が気になっていることも聞いた。
「洗礼とは、なんでしょう?」
セトの知識、山崎の記憶にある洗礼というのは、ワインを入れた聖杯や聖水など使って行う、キリスト教のものだ。
しかも中途半端な知識しかない。
「そこまで大層なものでもないですよ。ラメント教の信者になる、ということです」
養成院でも宗教に対する講義はあった。
しかし山崎の記憶の影響で、無神論者に近いセトは、その講義に興味がなかった。
講義内容を覚えていない、というより、講義があったことすら覚えていない。
「信者?ですか?」
「ええ、そうです。我々人間の命は原初の命から分かれたものです。ですから、死後に原初の命に戻り、永遠に生きるのです。そのために皆信者として、原初の命に感謝しながら日々を生きているのです」
「原初の命、神話に出てくるものですね?」
「そうですよ。我々はその原初の命によって、この世に生かされているのです」
そういうものですか。
それがセトの思ったことだった。
そもそも聖都に向かう目的が、自らの身分の保証を得ることだ。
そのために宗教を利用するだけ。
そんな程度の認識だった。
聖都エスクアはマクレランの王都と変わらないくらい大きかった。
ただし、街の至るところにラメント教会の影響が見える。
大通りを歩く人々の中には聖職者も多く、教会に関係する施設も多い。
その中心にあるのが、ラメント教会の総本山だった。
「あれが教会です」
マグナが指差した。
そこにはマクレラン王都にあった教会よりも、遥かに大きい教会があった。
教会というより、城に近い。
「あれが、教会ですか?」
「はい。ラメント教は三派に分かれていますが、ここはその全てにとっての聖地、総本山です」
その見上げるほど大きな教会だ。
高い外壁に囲まれ、その上にはいくつもの尖塔が立っている。
正面へ続く大階段の左右には、巨大な四体の石像が並んでいた。
「あれは?」
セトは石像を指差してマグナに尋ねた。
「四英雄と伝わってますね」
四英雄……。
そんな良いものなのかね?
それがセトの感想だった。
「しかし、デカいな」
(これだけのものを維持するには、どれだけの人間が必要なんだ?)
信仰について考えるより先に、そんなことを考えてしまう。
「坊っちゃん?」
ハーレイが声を掛ける。
「なんでもない」
セトはそう答えた。
ここで洗礼を受ける。
それで自分の身分が保証される。
今のセトにとって、それだけで十分だった。




