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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─へネス教国─
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第80話 泥沼の藪漕ぎ



森に分け入って二日目。

鬱蒼と茂る木々は深くなり、セトの魔法で整地しようにも、その数はかなり増えていた。


「もう、これは……」


セトは思わず吐きそうになる弱音を飲み込んだ。

後ろを振り返れば、森を開いてきた道ができている。


労力の無駄遣い。

そんな考えが頭を過ぎる。

道を見ると、これは無駄にしたくない。

そう思えてならなかった。


整地をするのも魔素を使う。

疲れるし、腹も減る。


植物は大地に溶け込んだ魔素を水分とともに吸い上げ、大気に放出する。

森の中では魔素には困らないが、食べるものは違う。


「ソルダ、食い物を探してきてくれ」


ソルダは先行して切り倒す役割。

その切り倒した方向を道に整地していく。


そのソルダにセトは指示を出す。

森に入ってからまともな食事をしていない。


「わかった。坊っちゃん、警戒を頼みます」


ソルダは森の中に入っていく。

カン、ドス、ガン、とソルダが木に目印となる傷をつける音が響いていた。


セトはふと馬車の中で眠るハーレイを見た。

ハーレイは野営中の警戒役。

昼間はセトとソルダが道を作り、夜はハーレイが警戒する。

交代するたびに、ハーレイは二人の体調を確認していた。


「草でも実でも何でもいいが、都合よく食えるものはあるのか?」


セトは今更ながら、森に入ったことを後悔していた。

しばらくしてソルダが小振りな猪のようなものを担いで戻ってきた。


「坊っちゃん、ありました」

「食えるのか?」

「たぶん」

「たぶん?………お前、これ角があるぞ」

「え?あー、はい。魔物ですね」


魔物は食べ物ではない。

魔素の毒素がその体内に多く含まれるため、食用に向かない。


「食うのか?これ」


セトは猪を指差して、ソルダに聞く。


「食うしかないと思いますけど」


どうやって?とは二人とも言わない。

答えられないからだ。


「焼けば?」

「毒が残ります」

「煮れば?」

「残ります」

「……食えないな」


そのとき、森の奥から動物の鳴き声、というか嘶きに近いような低い声が響いた。


「お前、この猪、大きさから見て子供だよな?」

「そうでしょうね」

「親は?」

「猪のですか?わかりません」

「殺してないんだな?」

「はい。近くにいないようでしたので」


そのソルダの答えにセトは頭を抱えた。


「子を殺された猪が来るぞ」


その言葉を言うや否や、茂みの中から慌ただしくなる。


「親だ!」


セトが叫んだ瞬間、現れたのは大きな猪。

見た目にその高さは大人の身長よりも大きいことがわかる。


「マジか……」


ソルダは思わず息をのんだ。


「子どもを狩るからこうなる」


親猪は子の死骸を見て、敵意を剥き出しにしている。

戦闘は避けられない。


「ソルダ、金属の杭になるものはないか?」

「ないですね。というか、手荷物以外はない」

「なら、作るか。しばらく止めろ」

「ええ!?」


勢いよく突っ込んでくる親猪の前に、身体強化したソルダが立ち塞がる。


ガシャァン!!


親猪の勢いは凄まじく、交通事故のような音を立ててソルダに体当たりした。

ソルダはふっ飛ばされて木に打ち付けられる。


「ソルダ!」


セトの声にソルダが反応し、起き上がるが足取りは覚束ない。


「時間稼ぐって、どれくらいだよ……」


ソルダは再び親猪に向かっていく。

森に入ってからまともな食事をしていない。

体力は限界に近い。


二回、三回とふっ飛ばされるソルダ。


「もういいぞ。ソルダ、よくやった」


土中の鉄分から作り出した10cmほどの鉄の杭。

それを風魔法で勢いよく親猪に飛ばして差し込む。


「仕上げだ」


セトは親猪に粉を撒いた。


「鉄粉だ」


そこにセトの雷魔法が撃ち込まれる。


杭を避雷針代りに雷が落ちる。

鉄粉は加熱され親猪の皮膚を焼く。


それでも親猪は倒れなかった。

ただ、背を向けて逃げてくれた。


「助かった?」


ソルダは疲労からその場にへたり込んだ。


ポツポツと雨が降ってくる。

先ほどまでの戦いで抉れた地面に水がたまり出す。


カチャ──


馬車のドアが開いてハーレイが出てきた。


「うるさいんですけど!眠たいんですけど!」


どうやら音がうるさくて起きたようだ。


「雨じゃないですか!地面がダメになる前に先に進んでください!」


バタン!


ハーレイは乱暴に馬車のドアを閉めた。


結局三人はこの日、食糧を得ることはできなかった。


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