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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─へネス教国─
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第79話 金欠病



王都を出たセトたちは、馬車に揺られて南の街道を進む。

南の街道は港街に進む道と、へネス教国の国境に向かう道に分かれている。

セトたちは国境方面に向かった。


王都を離れるにつれて、道沿いの建物は少なくなっていく。

街道の両脇には草原が広がり、遠くには山々が見えていた。

草原が続く景色は変化に乏しく、目を見張るようなものもない。


馬車の車輪が一定の間隔で音を立てる。

ガタ、ガタ、と規則正しく揺れるたびに、眠気が襲ってくる。


「金を節約したい」


とにかく、手持ちの金がない。

街に寄っても食事のみ。

宿はとらずに野宿する。


キャンプなどといった楽しいものではない。

夜は野盗や動物、魔物への警戒が必要になる。

昼の移動中も一人は必ず眠っている状態だ。

三人しかいない以上、全員が起きているわけにはいかなかった。


悪路ではないが、それでも揺れる。

どれだけセトが改造した馬車であっても、揺れることそのものは防げない。

御者を務める者にとっては眠気を誘う敵だった。

寝る者にとって、揺れはそれを妨げる最大の敵だった。


「眠い……」


当然、一週間もすれば、全員が寝不足になる。


宿でゆっくり寝たいが、手持ちは少ない。

夜、野営の最中にウトウトとすることも増えた。

焚き火の向こうで、ハーレイが舟を漕ぐ。

ソルダも何度も頭を落とし、そのたびに目を覚ます。

セトも眠気をこらえながら、火の向こうを眺めていた。


さらに五日が過ぎる。

国境の山に差し掛かった。

この山を越えれば、へネス教国の国内に入る。

だが、高い。

街道は山の斜面へ向かって伸び、その先は霞んで見えない。

山頂は雲に隠れている。


「……やっと着いた」


まだ国境を跨いでもいないが、絞り出した言葉は三人ともそれだった。


「坊っちゃん、山登るのやめません?」


ハーレイがボーッと山を見ながら言う。

セトも、正直登りたくはない。


「やめて、どうする?」


街道は一本道。

山へと続いている。

そこでソルダが言った。


「山の中程から、森に入って、森を抜けませんか?」


高い山を登るか、森を迂回するか。

二つに一つの選択だ。


「安全策だ。街道を行く」


セトは即答した。

だが、ハーレイとソルダがそれに釘を刺す。


「山より森を抜けたほうが早いと思う。この馬車なら、少々の悪路でも揺れないし」

「壊れたら俺が直すから、早いほうがいい」


森の中がどうなっているか不明だ。

馬車が通れるかどうかもわからない。

野生動物や魔物もいるだろう。


「馬車が通れないときは?置いていくのか?」

「「坊っちゃんが整地すればいい」」


何故か同じ回答を二人が揃えて言う。

二人は深い隈のある目で、セトを見ていた。

セトも深い隈のある目で、二人を見ていた。


「……お前ら、俺をなんだと思ってる?」

「便利な坊っちゃん」

「金はない坊っちゃん」


セトは二人をジトッとした目で見た。


「最後のは俺のせいじゃないだろ」


二人とも答えなかった。


セトは財布を見た。

軽い。

振ってみる。

チャリン、と小さな音がした。


「残り、いくらだ?」


ハーレイが聞く。


「……これだけ」


セトが見せた硬貨を見て、二人が黙った。


「……坊っちゃん」

「なんだ」

「森、行きましょう」


三人は無言で馬車を森へ向けた。


「まぁ、どうにかなるか……」


早く何とかへネス教国に着きたい。

とにかく、何とかして金を得る手段を得なければ……


その一心で彼ら一行は、街道を進み、途中から森に入っていく。

どこかフラフラと揺れる彼らは、遠目に見たときに体調の悪さを疑うほどだった。


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