第78話 身軽な旅の始まり
養成院を卒業したセトは、荷物を部屋から運び出した。
四年間住んでいたが、荷物はそこまで増えていない。
体の成長に伴って服を買い替えたくらいで、買い物という買い物もしていなかった。
四年間世話になった部屋を後にし、馬車小屋に向かう。
既に教官や職員への挨拶は済ましてある。
あとは出ていくだけだ。
「あいつら、どこ行った?」
馬車に運び込んだのはいいが、従者二人がいない。
どこかに行った、というよりまだこちらに到着していないようだ。
集合の時刻は過ぎている。
セトも遅刻したのだが、従者二人はもっと遅刻している。
「遅刻か……まぁ、いいか」
探しに行くにしても、ハーレイは従者用の宿舎だが、ソルダの住居は貧民街。
「まずはハーレイか」
とりあえずハーレイを訪ねに従者の宿舎に行ってみる。
「もう昨日の夕暮れには引き払ったよ」
宿舎の管理をしている職員の回答はそれだった。
「なんでも、王都最後の夜だから遊びに行くんだって言ってたな。帰ってこないから、もう引き払うって言ってさ。荷物持って行ったままさ」
続けて聞いた職員の話に、セトはカジノを思い浮かべた。
ハーレイが遊ぶというのなら、そこしかない。
「ありがとうございました」
セトは四年間の感謝も込めて、頭を下げた。
馬車小屋に戻り、職員に声を掛ける。
「従者を連れてくるので、それまで馬と馬車をお願いします」
「今日中にしてくれよ。規則があるから、長いこと管理できんからな」
セトは頭を下げ、養成院を出て貧民街に向かった。
先にソルダを探し、二人でカジノに向かってハーレイを拾うつもりだった。
「確か……このへん?」
だが、貧民街特有の街並みに、セトは迷った。
「ソルダを探してるんだ。家はどの辺りかわかりますか?」
道にいる人に話しかけるが、服装などの身なりの違いから、なかなか話そうとはしてくれない。
「すみません。ソルダを探しています」
一人一人頭を下げて、丁寧にお願いしていく。
すると数名の子どもが手を差し出しながら、近寄ってきた。
(金か?)
手持ちの金は少ない。
大きな買い物をしたわけではないが、これまでは祭壇の巫女の親族ということで、養成院にいる間は教会から仕送りを得ていた。
だが、訓練生という立場を失ったたため、教会がどう判断するか不明だ。
(あまり使いたくはないが……)
仕方ないと割り切り、少ない手持ちの金の中から少しを渡す。
だが、子どもは金を受け取りはしたが、首を横に振る。
その様子にセトは聞き込みを諦めた。
「やめだ。喋るつもりがないなら返せ」
「ケチ!」
そう一人が叫ぶと、子ども達は一目散に散り散りに逃げてしまった。
「もう、いいよ。うん、ホントに」
何もやる気がなくなったセトは、とりあえずカジノに向かう。
(金がなくなる前にヘネスに行かないと……)
そんなセトの考えを真正面から壊す光景が、目の前で繰り広げられていた。
カジノに着いたセトが目撃したのは、カジノから追い出されるハーレイとソルダだった。
「待ってくれ!もう1ゲームだけ!」
「そうだ!次は勝てるんだ!」
二人が警備にそう追い縋るが、二人とも素気無く断られている。
そこで後ろに立っているセトの存在に、ハーレイが気がついた。
「坊っちゃん!金を貸してください!」
四つん這いでバタバタと近寄ってくるハーレイ。
ソルダは警備に入れてくれと頼み込んでいる。
「金はない。もう出発する。準備しろ」
「準備どころじゃない!荷物も何も、身につけてるもの以外は質に入れちまった!金を!」
「はぁ?全部か?」
「身につけてるものとか手荷物はある。けど他は全部」
「お前だけか?」
「いや、ソルダも……」
「はぁ。じゃ、もうやめろ。才能がない」
「そんな!坊っちゃん!お願いします!」
結局この日、日が落ちる頃に彼らは王都を出発した。
だが、ハーレイもソルダも大きな荷物は持っていない。
身につけていたものと、手荷物の道具類だけだ。
三人は一路へネスを目指す。




