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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─ストラス山の少年─
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第8話 父の魔法



林の外で襲われていたのは、ケメルの言う通りラキストとその父のラマクだった。

彼らは狩りのために林に入り、魔物に追われていた。

用心棒として、付き添ったのは、セトの父、ゼラム。


「ケメルさん、ありがとう。助かった」


ゼラムはそう言ってケメルに頭を下げた。


「いや、いいんだよ。それにしても、アンタの息子。ありゃ賢いねぇ。有望だよ?」

「いやいや、夜更かし癖のある寝坊助ですよ」

「子どもなんてだいたいなんか面倒な癖があるもんさ」


息子を褒められたゼラムは、恥ずかしそうに頭を掻いた。


「ただね、魔法の使い方は、早めに教えたほうがいい。間違いを起こしてからじゃ遅いよ」


それまでと違い、真剣にゼラムを見つめるケメルの目に、ゼラムは少し寂しそうに答えた。


「そうなんですけどね、うちは……ほら、俺がハクスラ人ですし、妻も………」

「うちへ寄越しなさい。昼間に少しずつ教える」


ハクスラ人──

ウォルカ村から遥か西にある、魔素の薄い土地の人々。

魔素の乏しい環境に適応した彼らは、体内に取り込んだ魔素を身体強化に使うことに特化している。

その代わり、外部の魔素を利用する魔法はほとんど使えない。


「ありがたいんですがね、まだ早くないですか?」

「そうは言ってもねぇ。あの子は、才能というか、普通ではないよ?」


向こうの方でセトはラキストと魔物を観ながら何か話している。

ラマクが子どもたちを監督していた。


「魔法……ですか?」

「そうだよ。生活魔法ですら、エーコはままならないだろう?」

「ええ、まぁ………そうですね」

「あの子は魔素の扱いが苦手」

「ええ。昔からです」

「身体のほうに問題があるのかい?」

「……そう聞いてます」


エーコには疾患がある。

魔素を取り込み、毒素を濾す臓器がうまく機能していない。

そのため、魔法を使うことがうまくない。


「そういえばさ、アンタがいたのに、どうしてあんなに手こずったのさ?あの程度ちょちょいのちょいだろ?」

「獣人がいましてね……2人」

「………まさか。本当かい?」

「はい。狼の獣人でした」

「狼?山2つも3つも超えた先にしかいないはずだよ?」

「事情はわかりませんが………」

「それで?どうしたのさ?」

「1人は何とか駆除しました。もう1人は逃げられました」


その時、林が揺れた。


ダンッ!!


林の出口の辺りで土が爆ぜる。

高速で移動する何かが、セトとラキストの方向に突っ込んで来た。


「「え?」」


気がついたときには、振り返ったセトの目の前にはゼラムの背中があった。


(父さん……?)

いつも見ている背中。

けれど、今は妙に大きく見えた。


そして、背中越しに見えたのは、二足歩行の狼。


「下がれ!」


ゼラムが叫んだ。

獣人が唸り声を上げ、地面を蹴る。

ゼラムも同時に踏み込んだ。


ドンッ!


二つの影がぶつかる。

爪と拳が交差した。


「父さん……?」


セトには何が起きているのか分からなかった。

というか、見えなかった。


ただ、さっきケメルから聞いた言葉を思い出す。


──魔素は願いを叶える。

ゼラムの身体が、いつもより明らかに大きい。


(父さんの身体が大きくなった?)


狼の爪で腕が裂けるが、肥大した筋肉がそれを無理矢理閉じてしまう。

そしてその腕で何事もなかったかのように、人型の狼を殴りつける。

殴るために踏み込んだ地面は沈み、割れる。


(筋肉が増えてる………あんなに一瞬で?)


一瞬一瞬の動きが早く、目で追うのがやっとの早さ。

普通なら避けられないような、狼の速度で繰り出される攻撃を避け、時に受けながら、人型の狼に攻撃を加えていく。


ゼラムの拳が獣人の頬を捉えた。

獣人の身体が横へ吹き飛ぶ。

だが、倒れない。

四本の爪を地面に突き立て、獣人は身体を起こした。


「……まだやるか」


ゼラムが構え直す。

人型の狼が唸った。

次の瞬間、人型の狼の足元が抉れ、姿が消える。


「──速い!」


セトにはそう見えた。

ゼラムの身体が僅かに沈む。

次の瞬間、ゼラムの拳が獣人の頭を捉えていた。

ドッ、と鈍い音が響く。

獣人の身体が地面を転がり、そのまま動かなくなった。


「……え?」


セトには、何が起きたのか分からなかった。


「父さん!」


セトが駆け寄る。

ゼラムの脇腹から血が流れていた。


「ケガしてる!」

「大丈夫だろ。こうしたら、な!」

「痛くないの?」

「痛いさ。痛いけど、動けるなら問題ない」


肥大した筋肉が傷口を押し潰し、血が止まっていく。


「父さん、それ……どうやったの?」

「ん?ああ、これが俺の魔法だよ」


セトはそんな父が誇らしかった。


魔法がすごいからではない。

自分を守ってくれたからでもない。

ただ、父さんが強いことが、嬉しかった。


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