第7話 初めての魔法講義
「うわぁぁぁぁ!?」
バケットが伸びる要領で地面の一部が変化し、空に向かって伸びていく。
セトとケメルを乗せたバケットは地上4階ほどの高さに上昇した。
「アンタ、これは………」
「高いとこダメだった?」
「見晴らしがいいねぇ。遠くまで見えるよ」
ケメルは身を乗り出そうとする。
「危ないから!柵から乗り出したらダメ!」
「いいじゃないか、ちょっとくらい。おっ、逃げてるのはラキストじゃないかい?あとはラマクかね?」
ケメルは高所から見る景色に、はしゃいでいるようだ。
「さてさて、まぁ普通はもう少し大きくなってからなんだけどね」
神妙な面持ちになったケメルは一つの方向を指さす。
「いいかい?アンタは賢い。だから早めに教えておく。よーく聞いて、勉強なさい」
「なんのこと?」
「魔法だよ。この世の摂理さ」
ケメルの指先が少しずつ動く。
「魔法は魔素を使う。魔素は空気にも、地面にも、生き物にもある」
セトは黙って聞いていた。
「あたしたちは、それを使って魔法にする。魔素を体に取り込んで、体から出す。そして外の魔素に反応して魔法になる」
「……じゃあ、魔法って魔素そのものなの?」
「そういうことじゃないよ」
ケメルは少し困ったように笑った。
「まあ、難しい話は後だ。今は覚えておきな」
そう言って、ケメルは林の奥を指差した。
「魔素は願いを叶える」
その瞬間だった。
林の中から、見たこともない生き物が飛び出してきた。
「──こうやってね」
ケメルの指先が動く。
一陣の風が吹いた。
しかし、それは風ではなかった。
空気を切り裂くような鋭い刃が走り、魔物の群れを次々と薙ぎ払っていく。
セトは目を見開いた。
「……すごい」
「使い方次第さ」
ケメルは何でもないことのように言った。
「アンタみたいな便利な使い方もできる。こうやって狩りもできる」
ケメルはセトを見る。
「わかったね?使い方を間違えたらダメだよ?」
セトはしばらく薙ぎ倒された生き物たちから目が離せなかった。
「あれが気になるかい?じゃ、降ろしておくれ。見に行こう」
「うん」
セトはバケットをゆっくりと地面へ戻した。
雨の中を歩いて、二人は倒れた魔物のところへ向かう。
近くで見ると、それは狼に似ていた。
だが、角がある。
背中には硬い突起が並び、口から覗く牙も、普通の獣より明らかに長い。
「これ……動物?」
「魔物だよ」
「何が違うの?」
ケメルは少し考えた。
「魔素に馴染みすぎた生き物、とでも言えばいいかね」
セトはしゃがみ込んだ。
毛皮。 筋肉。 骨格。
どれも生き物として成立している。
ただ──
「……これ、普通の動物とそんなに変わらないね」
ケメルが眉をひそめた。
「そうだよ」
「じゃあ、どうして魔物なの?」
「人を食べるからさ」
「人を?」
「あんまり子どもに言うことじゃないんだけどねぇ。人はね、魔素を取り込む臓器が大きいんだ。体の大きさの割にね。そして武器になる爪も牙もない。エサにしやすいのさ」
「じゃあ、これは魔素が多いから人を食べるの?」
「そういうことだね」
セトは魔物の身体をもう一度見る。
「……でも」
「ん?」
「この魔物、魔法を使ってないよね?」
ケメルが黙った。
「魔素が多いなら、魔法を使えるんじゃないの?」
「使える魔物もいるよ」
「これは?」
「……知らないねぇ」
セトは魔物の身体を見つめる。
怖いというより、不思議だった。
角も、牙も、硬い背中も、魔法を使った様子はない。
それなのに、魔物と呼ばれている。
「じゃあ、魔素って……魔法だけに使うものじゃないんだ」
ケメルは少し驚いた顔をした。
「……そうだね」
「じゃあ、この角も?」
「さあねぇ」
「調べてみたい」
「やめときな。死んだ魔物でも危ないものはあるからね」
「一つだけ……状態がいいの……あった!」
「こら!セト!」
「持って帰る!」
地面がガラガラと動き出す。
「ベルコンなら、触らないで持って帰れるよ」
「やれやれだね」
セトは嬉しそうにニッコリ笑った。
笑顔だけは年相応に見えた。




