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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─ストラス山の少年─
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第7話 初めての魔法講義



「うわぁぁぁぁ!?」


バケットが伸びる要領で地面の一部が変化し、空に向かって伸びていく。


セトとケメルを乗せたバケットは地上4階ほどの高さに上昇した。


「アンタ、これは………」

「高いとこダメだった?」

「見晴らしがいいねぇ。遠くまで見えるよ」


ケメルは身を乗り出そうとする。


「危ないから!柵から乗り出したらダメ!」

「いいじゃないか、ちょっとくらい。おっ、逃げてるのはラキストじゃないかい?あとはラマクかね?」


ケメルは高所から見る景色に、はしゃいでいるようだ。


「さてさて、まぁ普通はもう少し大きくなってからなんだけどね」


神妙な面持ちになったケメルは一つの方向を指さす。


「いいかい?アンタは賢い。だから早めに教えておく。よーく聞いて、勉強なさい」

「なんのこと?」

「魔法だよ。この世の摂理さ」


ケメルの指先が少しずつ動く。


「魔法は魔素を使う。魔素は空気にも、地面にも、生き物にもある」


セトは黙って聞いていた。


「あたしたちは、それを使って魔法にする。魔素を体に取り込んで、体から出す。そして外の魔素に反応して魔法になる」

「……じゃあ、魔法って魔素そのものなの?」

「そういうことじゃないよ」


ケメルは少し困ったように笑った。


「まあ、難しい話は後だ。今は覚えておきな」


そう言って、ケメルは林の奥を指差した。


「魔素は願いを叶える」


その瞬間だった。

林の中から、見たこともない生き物が飛び出してきた。


「──こうやってね」


ケメルの指先が動く。

一陣の風が吹いた。

しかし、それは風ではなかった。

空気を切り裂くような鋭い刃が走り、魔物の群れを次々と薙ぎ払っていく。

セトは目を見開いた。


「……すごい」

「使い方次第さ」


ケメルは何でもないことのように言った。


「アンタみたいな便利な使い方もできる。こうやって狩りもできる」


ケメルはセトを見る。


「わかったね?使い方を間違えたらダメだよ?」


セトはしばらく薙ぎ倒された生き物たちから目が離せなかった。


「あれが気になるかい?じゃ、降ろしておくれ。見に行こう」

「うん」


セトはバケットをゆっくりと地面へ戻した。

雨の中を歩いて、二人は倒れた魔物のところへ向かう。

近くで見ると、それは狼に似ていた。

だが、角がある。

背中には硬い突起が並び、口から覗く牙も、普通の獣より明らかに長い。


「これ……動物?」

「魔物だよ」

「何が違うの?」


ケメルは少し考えた。


「魔素に馴染みすぎた生き物、とでも言えばいいかね」


セトはしゃがみ込んだ。

毛皮。 筋肉。 骨格。

どれも生き物として成立している。

ただ──


「……これ、普通の動物とそんなに変わらないね」


ケメルが眉をひそめた。


「そうだよ」

「じゃあ、どうして魔物なの?」

「人を食べるからさ」

「人を?」

「あんまり子どもに言うことじゃないんだけどねぇ。人はね、魔素を取り込む臓器が大きいんだ。体の大きさの割にね。そして武器になる爪も牙もない。エサにしやすいのさ」

「じゃあ、これは魔素が多いから人を食べるの?」

「そういうことだね」


セトは魔物の身体をもう一度見る。


「……でも」

「ん?」

「この魔物、魔法を使ってないよね?」


ケメルが黙った。


「魔素が多いなら、魔法を使えるんじゃないの?」

「使える魔物もいるよ」

「これは?」

「……知らないねぇ」


セトは魔物の身体を見つめる。

怖いというより、不思議だった。

角も、牙も、硬い背中も、魔法を使った様子はない。

それなのに、魔物と呼ばれている。


「じゃあ、魔素って……魔法だけに使うものじゃないんだ」


ケメルは少し驚いた顔をした。


「……そうだね」

「じゃあ、この角も?」

「さあねぇ」

「調べてみたい」

「やめときな。死んだ魔物でも危ないものはあるからね」

「一つだけ……状態がいいの……あった!」

「こら!セト!」

「持って帰る!」


地面がガラガラと動き出す。


「ベルコンなら、触らないで持って帰れるよ」

「やれやれだね」


セトは嬉しそうにニッコリ笑った。

笑顔だけは年相応に見えた。

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