第76話 両国関係の悪化
リニオ帝国の南進は止まらなかった。
オブリオン王国の東部は切り取られ、南北に細長くリニオ帝国の領土になる。
リニオ帝国はやがてリキイル連合国との境に差し掛かると、リキイル連合国にも侵入を開始した。
マクレラン王国内の意識は、リニオの侵攻に対して、当事国である認識が薄くなる。
それまではリニオ帝国が攻めてくる可能性があったが、侵攻方向が違うと判断したためだ。
「これで狙いははっきりした。侵攻の目的は海だ。ひたすらに南進している。こちらではない」
マクレラン王国の国王ロイホールド四世は、オブリオン王国への援軍派兵を取り止める意思を示した。
「訓練生を送り込んだ宰相と議会の処分も下す」
国王が否定した訓練生の派兵を強行した宰相は、解任されて罪に問われた。
さらにその議論を取りまとめた議会も責任を問われる。
「援軍に向かった軍員に被害が出ている。死亡者もいる。そのうち二名は訓練生だ。正式な軍員ではない者たちだ」
その一言だけで十分だった。
「あの時点ではリニオ帝国の狙いがわからなかった」
宰相と議会はそう弁明したが、国王の判断は変わらない。
わからないのなら、わかるまで待つのも手段だ。
そう言われては元も子もない。
手遅れになる前に動き、狙いを外した彼らが悪いのか?
その答えは出ないが、事実として訓練生派兵、そして二名死亡という結果が、彼らに責任を取る必要を迫った。
この結果、戦争に賛成する派閥は急速に縮小し、戦争に反対する派閥が台頭するようになる。
その流れのまま、マクレラン王国はオブリオン王国への援軍派兵を、正式に国として取り止めた。
これにオブリオン王国は反発した。
オブリオン王国のペトラディア女王は、撤退を決めたマクレラン王国に対して親書を送る。
親書の内容こそ、援軍への感謝など、国としての威信を損なわないものだったが、軍部や国民たちの意識はまるで違った。
オブリオン王国内では、マクレラン王国に対しての反発が強まる。
見捨てられた。
奴らは腰抜けだ。
そういった風潮が蔓延した。
両国の同盟関係は、形式的には継続していたが、それは国家間の取り決めとしての話だった。
特にオブリオン王国の国民たちは、マクレランは頼りないとして、マクレラン王国を嫌うようになる。
同じラメント教四柱派でありながら、両国の関係は冷めたものになっていった。
この状況に、四柱派の総本山を抱えるへネス教国は静観を決め込む。
国として見た場合、リニオ帝国は国土が広いため、資源も多い。
へネス教国とリニオ帝国は、これまで交易のつながりが薄かった。
リニオ帝国に至るまで、オブリオン王国かリキイル連合国を通る他にルートはない。
そしてリニオ帝国は四柱派でもない。
しかし、海でつながればその資源を交易で得ることができる。
半島国家のへネス教国にとって、それはそれで政治的な判断として是でもあった。
このヘネス教国の動きは、マクレラン王国、オブリオン王国の両国にとって決定的な亀裂をもたらした。
仲裁する相手を失った両国の関係は急速に悪化する。
特にオブリオン王国では、マクレラン王国からの交易品に対し、商人たちが勝手に法外な関税をかけ、交易取引におけるマクレラン王国の不利が決定的になる。
「マクレランの腰抜けども、嘘つきども。金だけは嘘はつけねぇ。お前たちの嘘もここまでだ」
オブリオン王国内では、このようにしてマクレラン王国を侮辱するようになった。
そしてそれはペトラディア女王の耳にも入ったが、もはや統制などできない素直な国民の感情だと認識された。
戦費が嵩み、財政の苦しいオブリオン王国は商人たちが掛ける法外な関税を黙認した。
その上で商人たちへの税を増額し、それを国家財政に当て込んだ。
これは国としての承認を表向きにはしていない。
しかしマクレラン王国から見れば、明らかに国として承認したことと変わらなかった。
「国境の警備を厚くしろ。オブリオン王国に物は売るな」
ロイホールド四世の指示により、両国関係は悪化の一途を辿ることになる。




