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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─他国出征─
75/140

第75話 英雄とは



ソルダ・ストークス。

26歳。

オブリオン王国東の街ルマゴスの出身。

父、母ともにハクスラ人であり、魔法は身体強化のみ。

ルマゴスでは父の鍛冶屋を継いだ。

リニオ帝国の侵攻に伴い、領主軍に徴発される。

その後は領主軍として転戦するが、領主軍が壊滅。

オブリオン王国軍に所属を改められるが、徴用兵としての立場は変わらず。

社会的身分は、オブリオン王国ルマゴスの住人、鍛冶屋。


「それがなぜ、ここにいる?」


ガリオンは頭を抱えた。

単純に見たら、ただの脱走兵だ。

軍を勝手に個人の判断で、誰の許可を得ることもなく軍を離れることなどできない。


「俺は坊っちゃんの護衛だ」


ソルダは胸を張って答える。

もともとそこまで難しいことを考えるのは得意ではない。

セトに付くと決めたのも、作戦立案の判断、目的の最大化の決断、そして自分自身をまず最前列に置く姿。

安全な位置から指示を出す上官ではない。

それが決め手だった。


「護衛とは、言うがな。お前は所属の上では、オブリオン王国軍だ。ここにいるのは

問題でしかない」

「そうは言われましても。俺は無理矢理徴発されて兵として使われてました。故郷はもうリニオ領になってしまいましたし、戻る部隊も壊滅している」

「だからと言って軍役を解かれたわけではあるまい?」


勝手に軍を離れていいはずはない。

特にオブリオン王国は現在かなりの領地を切り取られている。


「問題はあるかと思いますが、あんな信用のできない軍にいるより、私は信用のできる人のもとにいたい」

「軍が、信用ならんかね?」

「国を守るとは建前。後ろから指示だけ出して、とっとと逃げるような上官ばかり見てきました。そんな軍に戻りたいとは思いませんね」

「しかし、だ。お前の所属がオブリオン王国に残っている。これが問題だ。これはお前の意思に関係ない」


脱走兵を匿う。

それ自体が罪だ。

しかも場所が悪過ぎる。

王立魔法士官養成院、つまりマクレラン王国の軍人の養成所に連れてきてしまっている。

言い逃れはできない。


「お前の処遇については後回しだ。こちらからオブリオン王国軍に報告を送る」

「報告ですか?」

「そうだ。ここにいる。保護している、ということにしようか?マクレラン王国はお前のあれこれを決める立場にはない」


ソルダに関する報告は、オブリオン王国に届けられた。

マクレラン王国にて保護している旨は、正確に伝えられたが、その返事は返ってこない。


戦況の悪化により、国内情勢は悪くなる一方。

さらにマクレラン王国が軍の派兵を打ち切る動きも見せていた。

マクレラン王国としては、自国に被害が及ばないのであれば、これ以上の派兵はしたくない。

これらの事情が積み重なり、徴用兵のソルダの処遇については、埋もれに埋もれた案件になってしまう。


ソルダの件は、何も返事がないまま季節は過ぎた。

春に派兵された訓練生も戻ってくる。

27名中25名の帰還。

二名死亡。

これは南東方面に派兵された訓練生たちだ。

やはり南東方面の攻撃は激しく、撤退戦に巻き込まれた部隊が壊滅していた。




そして秋の長期休養に入る。


セトはウォルカに帰る。

家族のいる故郷へと。


「父さん、僕はまた守れなかった」


父の墓の前に立ち、セトはその胸の内を打ち明けた。


「74人も殺した。もっとうまくできたかもしれない。彼らは次頑張るなんてもうできない。彼らには次はない……」


墓は何も語らない。


「総長は、誇りに思えって言った。でも、僕は……人を殺した」


父、ゼラムの墓はそこにあるだけ。

母、エーコの墓も。

師、ケメルの墓もそうだ。

何も語りかけず、ただそこにある。


その隣、少し小さな墓石で作った墓。

従者キセムの墓。

セトが葬ったセトの従者。


「お前は、俺に英雄の器と言った。人を殺した俺に、英雄の器があるか?」


キセムの墓も何も答えなかった。



出征前に出したアメリアに宛てた手紙の返事は、セトの手元にあった。

だが、それはまだ開けられていない。


「ただいま」


それを隠したまま、セトは岩窟院に帰った。

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