第73話 理も非も曲げる
セトは養成院に送り返される。
護衛はハーレイとソルダ。
「なんでお前がついてくる?」
ハーレイはソルダに言うが、ソルダはどこ吹く風だ。
「俺は坊っちゃんについて行く」
いつの間にか「お坊ちゃん」だった呼び名は、「坊っちゃん」に変化していた。
「お前は戦士だろ?」
「そうだ。でも鍛冶屋だ」
「魔法は?」
「俺はハクスラ人だ。身体強化だけ」
ハクスラ人、その言葉にセトが反応する。
「父さんもハクスラ人だった」
「へぇ、その割には魔法が得意だ」
「俺は、父さんとは血が繋がってない」
「ふぅん。まぁそういうこともあるわな」
道中野宿をし、街に立ち寄り、マクレラン王国の王都を目指す。
来た道を引き返すだけだが、その道中は来たときとは違う重苦しさがあった。
(父さんなら、どうしただろうか…)
既に鬼籍に入った父を思う。
身体強化で目にも止まらぬ早さで敵を薙ぎ倒した父。
傷ついた体すら、筋肉を隆起させて止血していた。
(父さんなら、もっと自信を持って判断したんだろうか…)
自信。
セトにはそれが足りなかった。
自分の判断を間違えているとも、正しいとも言えない。
その場はそれしかなかったと言える。
だが、あとになるとどうだったか不安になる。
(どうすれば、よかった?)
それはセトが持っていない答えだった。
──養成院総長室。
総長のガリオンは報告書を読んでため息をついた。
セトが行った撤退戦の文書だ。
セト以外の生き残った兵からの聞き取りも含めたもの。
セトを送り返す理由として、急使が持ってきたものだ。
「目を疑うな」
(まさか、これは、おそらく事実だろうな……)
撤退戦の指揮。
捨て駒戦術。
生体を材料にした爆薬。
どれもが訓練生という規格から外れていた。
というか、軍人として見ても異質に見えた。
「だが、生きて帰ってきたか」
それだけで良かった。
ガリオンは訓練生に「生きて帰れ」と訓示した。
それは命令だった。
「死なないこと。セト・ウォルカは守った」
セトは確かにガリオンの命令は守った。
それは間違いのない事実だ。
セトは養成院に到着すると、すぐにガリオンのもとに通された。
──ガチャ
ドアを開けて、総長室に入る。
「第四学生セト・ウォルカ、ただいま戻りました」
その声に覇気はない。
顔からもいつもの生意気な様子は見て取れない。
「セト、こっちに来い」
ガリオンは自分の前に手招きでセトを呼ぶ。
「よく命令を守った。誇りに思え。お前は生き残った」
セトは俯いてなにも言わない。
その態度は、悲しみとも悔しさとも違う感情が溢れているように思えた。
「自信を持て。お前は他の22人を死地から救い出した」
「ですが、74人を死なせました……そのうち……二人は……」
「気にするなとは言わん。だが、お前はよくやった。少なくとも、俺はお前を誇りに思う。胸を張れ」
セトの肩が震え、泣くことを我慢できなかった。
セトが落ち着くまで、ガリオンはセトを総長室で泣かせた。
何も声をかけるでもなく、ただそこで泣かせた。
「出征前に手紙が届いていた。お前の姉からだ」
ガリオンから渡された手紙。
それはアメリアに送った手紙の返事。
セトは封筒を見つめた。
開ければ、きっといつもの姉の文字がある。
だが、今のセトには、それを見ることができなかった。
セトは何も言わず、手紙を懐にしまった。




