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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─他国出征─
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第72話 正否の未決



(あのとき、彼はどんな表情をしていた?)

(あのとき、彼はもしかしたら、何か言おうとしたんじゃないか?)


殿軍の23名は、さらに後方まで下がった。

そこは後方拠点のオブリオン軍の指揮官が拠点を下げて、駐屯している場所だ。


彼らは攻撃を受けた拠点を放棄して、さらに後方、東方向に7kmの位置に駐屯していた。

そして、そこを前線基地とするため、中央との連携を模索していた。


そこに殿軍が戻ってきた。


当初彼らは、殿軍の帰還を考えていなかった。

絶望視していた。

戻ってきた彼らを見て驚き、そして手厚く保護した。


「どういうことだ!」


だが、指揮官はセトの行った捨て駒戦術を聞いて激怒した。

たった11歳の少年の作戦を実行し、そして味方を見捨てて戻ってきた。

そう考えたのだ。


セトは指揮官の天幕に呼ばれた。

事情はセトには察しがついた。

作戦の指揮と、その責任だろう。


中に入るとテーブルには指揮官がいた。

その周りに数人の軍人が立っている。


「まず聞く。お前は誰だ?」

「セト・ウォルカです」

「階級は?」

「ありません。訓練生です」

「では、なぜ訓練生であるお前が撤退戦を指揮した?」

「全員犬死する可能性がありました」

「犬死ではない!後方を生かすための名誉だ!」


ドン!と指揮官がテーブルを叩く。


「兵を捨て駒にするとは!どういうつもりだ!」

「説明のしようがありません」

「拠点を奪われ!もはや取り返しに行くこともすぐにはできない!」

「その通りです」

「お前は!自分が何をしたかわかっているのか!?」

「はい。人を……殺しました……」

「そうだ!しかも敵のみならず、味方も殺した!その手で!」

「……はい」

「お前は最後方まで下がれ。中央に戻してマクレランに送る」


それだけ言うと、指揮官はセトを天幕から追い出した。


「なぁ、お前ら、11歳の時に人を殺したことがあるか?」


セトを追い出した指揮官は、そばにいる兵たちに聞いた。


「ありません」


口々に兵たちは答える。

誰一人として、セトと同じ年で人を殺した経験がある人間はいなかった。


「では、軍を指揮して、撤退戦を成功させることができると思うか?11歳のときのお前ら自身に」


その質問に対する答えも、「できない」というものだった。


「そうだよな。あれは異常だ。97名が23名になった。だいたい人的被害は殿軍の四分の三か。撤退戦としてみたら、成功の分類だ。本隊もここも維持できてる」


その指揮官の話に、兵たちは素直に頷けない。

拠点を奪われる。

部隊が全滅する。

さらに後方まで押し込まれる。

これら数ある失敗のなかで、今回の撤退戦は、拠点を奪われはしたが、全滅には至っていない。

戦線が後退したとはいえ、しばらくの間は敵軍も進軍できない。


「だが、やり方が危険すぎる。あれは、人を選ぶ。というか、人が避ける。どういう教育を受けたんだ?」


その答えは、その天幕の中では出ない。


天幕を出たセトは、一人でトボトボと歩いていた。

そこに、ハーレイとソルダが合流する。


「坊っちゃん、最後のあれ?ありゃなんだ?」


ハーレイは過反応した爆薬が気になるらしい。

だが、セトはそれを答えるつもりはなかった。


「お坊ちゃんよ、あんた無茶苦茶だけど、すげぇな」


ソルダはセトに興味があるらしい。

セトは二人の言葉のどちらにも反応しない。


「お坊ちゃん、セト・ウォルカだったな?俺を雇ってくれないか?」


ソルダのその言葉にも反応しない。


「なんで?」


ハーレイが先に反応した。

セトは気にする様子もない。


「このお坊ちゃんなら、雇われてもいいかって思った」

「軍は?」

「俺は徴兵でここにいる。もともとは鍛冶屋だ。職業軍人じゃない」

「それでも今は軍所属だろ?」

「どうにかなるだろ?」

「ええ?いや、知らんけど、そんなもん?」

「俺も知らん」


そうして話す二人に、セトが声を掛ける。


「俺は中央まで戻される。そこでどうするか聞けばいい」


セトの反応はそれだけだった。


──翌日。

セトは拠点からオブリオン王国の王都に戻された。

その道中、ソルダとハーレイがチンチロリンで遊ぶが、セトはずっと考え事にふけっているようだった。


「よく戻った」


それが王都でマクレラン王国軍として、後方支援を指揮するスカージンス大隊長の第一声だった。


「話は聞いている。詳細の聞き取りをしたい。ウォルカ訓練生、来い」


セトは天幕に通され、事の顛末を全て話した。

二度目の支援物資の搬送での襲撃。

拠点指揮官を逃がすために前に出たこと。

そこからは消耗を伴う撤退戦になったこと。

捨て駒戦術から隘路での崩落。

人を殺したこと。

全てを話した。


「わかった」


それだけ言うと大隊長はセトを天幕から出した。


話している間、セトは泣いていた。

自分の判断が正しかったかわからなかった。


(あのとき、助けられたんじゃないか)


何度考えても答えは出ない。

あの兵士を助ければ、敵も通してしまう。

ならば、あそこで崩すしかなかった。

わかっている。

わかっているからこそ、苦しかった。


ネオル・スカージンスは腕を組んで考える。


(正しい?という表現はこの場合は不可能だ。状況だけ見れば、まず間違いなく成功例。責められる立場かといえば、そうなるが、少年を責めるのか?)


戦争における正解とは?

そもそも戦争などないほうがいいのだ。


(正当化するのは間違いだが、罪と断じるのは行き過ぎだ。間違いなくウォルカが生かした命がある)


彼にもセトの判断の正否は測りかねた。


(才能……というのは違う。判断が合理的、というか異常だ。軍には向いていない)


スカージンス大隊長は、まだ派遣期間は終わっていないが、セトを養成院に送り返すことを決めた。


(あれは大人数を動かす軍の歯車にはならない。あれは、別物だ)


養成院から出陣した訓練生のうち、セト一人だけが戻される。

それは能力が低い、意識が低い、などの理由ではない。


軍では扱えない。


それが理由だった。


(全員が納得する判断ってなんだ?)


セトの答えもまだ出ていなかった。


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