第70話 屍山血河
後退を始めたセトたちの人数は97名。
先に本隊などはまとめて後退している。
「敵の数が多すぎる」
後退する97名をまとめる隊長は、敵の数を見て判断に迷う。
97名のうち、撤退してきた五名を含めて負傷者は14名。
物資は手持ちの物以外は放棄してきた。
「長くは保たんぞ」
敵は続々と増え、1000人規模の大隊程度に膨れ上がっているように見えた。
「止まらない!」
「火球も、氷柱も、当たってるのに……」
敵前衛は生気が薄く、死兵のように進んでくる。
魔法が当たり、隣の兵が負傷しても、倒れても突撃は止まらなかった。
こちらはマクレラン軍とオブリオン軍の混成軍の様相だ。
指揮系統が既に乱れている。
士気は下がる一方だ。
「とりあえず、足場を悪くします」
そこにセトの声が掛かった。
敵兵と味方の間の道の高さが変わる。
タイル状に5〜10cm程度、沈降と隆起を不規則に起こす。
「これ、真似してくれません?」
混成軍のメンバーは何を言われているのか、理解できないようだ。
「とりあえず魔法士の方五名が足場をこのように変えてください。それと近接戦闘できる方、五名。魔法士たちを守ってください。あとは治癒師の方と遠距離攻撃できる方で合わせて五名。15名で一旦この場をお願いします。」
「何を……」
「進軍速度を下げます。距離が半分程度に縮まったら逃げて下さい。隊長のところまで。そこを我々の最後尾とします」
この最中にも敵兵は突っ込んでくる。
敵の風刃が体に当たり、セトの腕にも傷が入る。
「悩んでいる暇はありません。まずは俺が入る。ハーレイお前もだ。次は400〜500mほどに一組で戦線を構築します。これを繰り返す」
セトの頭の上を火球が飛んでいく。
ハーレイはセトを睨んでいるが、腹は括っているようだ。
「やりますよ!」
「他に選択肢は?」
隊長が叫ぶ。
「突撃して全員犬死です!」
セトの言葉に全員が青い顔になる。
「生きて帰りますよ!来ます!」
最初の15人ができる限りの戦闘を繰り広げる。
敵兵の突撃する勢いはタイル状の地面の影響で落ちている。
「できるだけ!時間を作ります!」
剣と剣がぶつかり、魔法が飛び交う。
そこかしこに負傷者が転がり、敵味方が入り乱れる。
「逃げます!」
セトの声で一斉に後方に逃げ出す。
その数は13名。
「ハーレイ!走りながら回復しろ!他の治癒師も!」
二列目を通過する。
「頼みます!」
そのまま三列目も通過。
その先に隊長ら最後尾がいた。
「もっと先へ行ってください!あと二名の補充を!」
補充。
つまりは欠員が出たということ。
「早く!」
「なんだ……これは……」
「何でもいい!早く後方の本隊まで!」
そのままセトは四列目として残る。
「五列まで増やして下さい。お願いします」
その時二列目が合流する。
「早く行って!」
セトに押し出されるように、隊長らは後退を始めた。
「坊っちゃん、これはヤバいんじゃ
ない?」
「ヤバいどころじゃない。死地に近い」
「じゃ、今なんでこうしてるんで?」
「生きて帰るためだ」
「捨て駒戦術で?」
「そうだ。帰るぞ」
三列目が駆け抜けて行く。
「構えろ!来るぞ!」
再び敵軍の突撃を受ける。
だが、明らかに戦線が延びている。
「隘路は!?」
「なんだって!?」
「狭い道は!?どっかないの!?」
「まだ先だ!」
(隘路で壁を崩すしかない)
「これ以上無理だぞ!」
「逃げます!」
セトたちは八人で駆け抜ける。
五列目、六列目、七列目………
八列目が14人。
一人足りない。
(もう補充が効かないか………)
最後尾に到着する。
「もう補充は無理ですか?」
「無理だ。こちらもあと六人しかいない」
「わかりました。この先の隘路を越えてください。そこを崩します」
「それは……この土地を放棄するのか?」
「そうなります」
隘路を崩して塞ぐ。
この先に進むには、崩した道を再度通すしかない。
崩してしまえばすぐには取り戻せない。
「あと、意識のない負傷兵を置いて行ってください」
「なんだと?」
「足手まといです」
七列目の戦線が戻ってきた。
あとは八列目が後退すれば、ここが最終ラインになる。
「早く!行って!すぐに味方が戻ってきます!」
「だが──」
「一人だけください。10人でやります!」
九列目として隘路を抜けた先に、負傷兵を含めたセトら10人が残った。
「なぁ、お坊ちゃん、あんた無茶苦茶だな」
「え?」
「オブリオン所属のソルダ・ストークスだ」
「マクレランの訓練生のセト・ウォルカです。こっちが従者のハーレイ」
お互いに場違いな挨拶を交わす。
続々と前列たちが駆け抜けていく。
「生きて帰れるかい?」
「運次第と思いますよ」
敵兵が目の前に迫っていた。




