第67話 人員配置
雨の中、オブリオン王都に着いた訓練生たちは、王都の外にいた。
「これより王都に入る。戦時下である。気を引き締めろ」
王都の城壁は高い。
規模はセトの感覚ではマクレランの王都と同じくらい。
だが、その警備体制はマクレランのそれよりもかなり厳重なように見えた。
戦時下ということもあるのだろう。
城壁の内外にいる兵士の数は明らかに多かった。
そして門をくぐって中に入る。
王都の中はこれまで通ってきた村や街とは全く違う様相だった。
発展、という意味ではもちろんだが、何よりも男性比率が高く、街中を歩く兵士の姿も珍しくない。
(地方から人を吸い上げてるな)
セトはその状況に総力戦の可能性を見た。
軍服にも差がある。
階級によって軍服につける印が変わったり、軍服の仕様そのものを変えたりする。
それはマクレラン王国でも、オブリオン王国でも同じのようだ。
王都内では様々な階級の軍人が歩いている。
ある者は上官らしき人物に頭を下げている。
ある者は同僚らしき人物と話しながら歩いている。
(女性比率が逆に低い。かなりの男性が集められているな。軍服が目立つ)
軍人の階級差は身分差になりやすい。
身分が違えば、住む場所も、働く場所も、付き合う相手も変わる。
それが王都というものだ。
(なのに、ここでは……)
階級が違えば生活圏もある程度分かれる。それが普通だと、セトは考えていた。
(ここまで階級が入り乱れて同じ場所にいるとは……かなり人を集めているな)
通常なら各地の駐屯地や前線、地方軍司令部などに分散しているはずの人員が、王都に集められているように見えた。
(王都に人を集め、軍としての中央拠点機能を持たせている?)
その日は王都に到着し、オブリオン軍の宿舎の敷地を借りて野営を組み、一夜を過ごした。
「これより人員の配置を行う。まず、諸君らはそれぞれ戦地後方に向かうが、支援部隊に一名ずつ配置される。尚、従者は訓練生について動いてほしい」
教官が訓練生の前に立って、今後の動きについて説明する。
「支援部隊は物資輸送が主な任務だ。現在戦線は南北に延び、各所に点在。主な箇所だけでも約30拠点ある。それらに向かう部隊に一名ずつ配置される」
昨日から降り続ける雨は未だにやまない。
訓練生たちは雨の中、教官の話を起立の姿勢で聞いていた。
「物資の輸送を行い、戦線後方に受け渡す。そして戻ってくる。君たちが戻ってくる頃に、王都に次の物資が運び込まれている。それをまた届ける。これを繰り返す」
教官の後ろにマクレラン王国の軍服を着た軍人が並んでいる。
彼らも雨の中、身動き一つ取らずに立っている。
「こちらにおられる方々が、本日より諸君の上官となる。訓練生という肩書であっても、今は軍人である。上官の指示に従い、任務を遂げよ」
そして人員配置が行われていく。
ある者たちは北東の奪還地へ。
ある者たちは中央の膠着地へ。
そしてある者たちは南東の激戦地へ。
セトは南東方面に向かう部隊に組み込まれた。
その南東方面の後方支援部隊を仕切るのが、マクレラン王国軍所属のネオル・スカージンス大隊長だ。
「これより諸君が行動を共にする者たちを紹介する」
大隊長から訓練生それぞれに二人の軍人が紹介された。
物資輸送の任務はその日のうちに開始された。
「坊っちゃん、この配置、ちょっと引っ掛かる」
輸送任務中、王都を出た直後にハーレイが歩きながらセトに話しかける。
「なにがだ?」
「気がつかなかったんですか?主に貴族家や大商家は奪還地や膠着地、それ以外が激戦地方面に回されてますよ」
「そうなのか?」
「名前と顔ぶれでわかるでしょう?」
「すまん。ほとんど知らない人たちなんだ」
「ディターン家のアルジェス様は奪還地ですし」
「ああ、そうだったか?」
ハーレイはセトの呑気な返事にため息をついた。
「無駄口を叩くな。任務に集中しろ」
セトの所属する輸送隊の小隊長がセトの横に来て言う。
「申し訳ありません」
「任務は始まったばかりだ。気を抜くな」
セトは小さく「はい」と答えた。
セトの戦争は、こうして始まった。




