第66話 オブリオン王国の情勢
養成院を出て九日間。
途中で街に立ち寄り、休憩などを挟みながら進んだ。
街に着いても休んでいる時間はほとんどない。
街から街へ向かう旅とは違う。
これは行軍だ。
通常なら十二、三日程度の距離を、かなり短縮して、国境に差し掛かった。
「訓練生諸君に告ぐ。今より国境を越える。いいか?現在オブリオン王国国内は、北東及び東方をリニオ帝国に占領されている。つまり、オブリオン王国国内といえども、戦地と考えよ」
実際にオブリオン王国では、貴族らの動員や徴兵も行われていた。
それにより働き手をなくした家などでは、女性がきり盛りしたり、より安全を求めて他の地域に移動するなどしていた。
「これより戦地後方に向かうが、それまでに立ち寄る村では、炊き出しを行う。くれぐれもマクレラン王国の国軍として恥を晒すな!」
「「「はい!!!」」」
戦地の後方、とは言っても国境を越えてオブリオン王国の王都までは東に通常なら十五日ほど。
さらに後方と呼ばれる地域までは、王都から東に十日ほどだ。
「結構押し込まれてるな」
それがセトの印象だった。
「なんかこの軍の動きをみる限り、リニオも必死みたいですねぇ」
「そうだろうな」
「坊っちゃん、なにをお考えで?」
「いや?ただ、敵軍を自国に入れた時点でかなりマズいだろうな、と思っただけだ」
「ふぅん」
「他国を戦場にして潰せるなら、それが一番いい」
「なんて不謹慎なこと言うんですかねぇ」
セトとハーレイがペチャクチャと話している。
セトたち訓練生の後方の荷駄には、食糧や武器、防具など必要な資材が積まれている。
それを届けつつ、炊き出しによる支援が基本的な任務として与えられたものだった。
「まずは王都を目指す」
王都までの道のり。
大きな街、小さな村、それら含めて十三カ所を巡り、王都に入る。
荷駄には氷の魔法がかけられ、防腐のために冷凍できるものしか食糧は積まれていない。
(これは、マズいかもしれないな)
それがセトの感想だった。
どの街も村も徴兵により男性の比率がかなり低い。
そして、立ち寄った中には既に逃散してもぬけの殻となった村もあった。
炊き出しには子どもが並び、少ない食事を笑顔で受け取る。
他にも、女性たちが我先にと殺到する村もあり、食事を受け取っても礼すら言えない程に疲弊している様子だった。
「次はいつ来てくれますか?」
その村人からの問いに、訓練生たちは安易に答えることができない。
まだ戦線から離れている。
後方ですらない地域でこの状態だ。
(前線は、もつのか?)
「ハーレイ、考えを改めろ」
「なんですかい?」
「緊急事態を想定しろ」
「坊っちゃんといるとだいたい毎日緊急事態じゃないですか?」
「冗談じゃないことまで含めて考えろ」
「三年前にもありましたけど?」
「じゃあ、それも想定内に入れろ」
ハーレイは心底嫌そうな顔をした。
ヒスイのような化け物とまた邂逅するのではないか?
ハーレイはそれを思うと、今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいだった。
対照的にセトの表情は堅い。
(これは、なんだ?どうしてここまで必死にやる必要がある?)
「ハーレイ、地図は?」
「そんなもんないですよ。最重要機密ですよ。他国に地図なんて渡しませんよ」
「粗くていい。手書きでもいい」
「あー、じゃ、こんな感じですかね?」
そうやって地面に折れた枝で描かれた大まかな地図。
「戦地、占領地、これから向かう後方は?」
「この辺?」
「オブリオンが取り返した場所は?」
「聞いた範囲では、ここと、あとはこの辺?ここは行ったり来たり」
(これは、マクレランまではおそらく来ないんじゃないか?)
それがセトの読みだった。
地図を見る限り、マクレラン王国に来るよりも別のものを目指しているように見えた。
それは、占領地が南東方面に固まり、侵攻を開始した北東方向は、そこまで広く切り取られていなかったからだ。
というより、北東方向の領地はオブリオンが取り返したあとに、リニオによる再占領がない。
北東方向は、細く南側に伸びるようにリニオの占領地が続く。
南東方向は取っては取り返されているように見えた。
「わからんな」
「わからんのならなんで描かせたんです?」
「そういう意味じゃない」
こうして訓練生の炊き出し部隊はオブリオン王国の王都を目指して進んでいく。




