第62話 宗教戦争の様相
マクレラン王国は職業軍人の動員を続けたが、戦況は思わしくない。
オブリオン王国の領土は切り取られ、取り返しても別の地域を奪われる。
やがてマクレラン王国の北側、リニオ帝国との国境も危ないという噂も流れた。
そしてへネス教国も動員兵力を増した。
これにより領地貴族の一部も戦争に参加していくことになる。
一方、養成院。
セトは眠気に耐えながら座学に勤しんでいた。
「いいか?宗教、特にこのマクレラン王国はラメント教四柱派だ」
「……はい」
「これはかつて神罰が下ったときの英雄たち四人を世界を支えた柱として讃える教義だ」
「………はい」
「対して四聖派は神罰の際に現れた聖なる存在とするもの。四神派は神罰を打ち破って新たに神になったものとする」
「……………」
セトの返事はない。
いびきだけが静かな部屋に響いていた。
「起きろぉ!」
その後ろでハーレイがケタケタと笑っている。
「ハーレイ!なぜお前はこいつに真面目に講義を受けるように言わん!?」
「そりゃ坊っちゃんは毎日疲れてますからね。世界一お疲れなんでしょうよ」
「くだらんこと言う暇があるなら常識を教えろ!」
セトは毎日鏡像魔法の練習をしている。
使っているのは、サイコロだ。
カップに隠したサイコロの出目。
それをハーレイが決めて、その通りに置く。
セトはハーレイの脳内を読み取り、その出目を当てていく。
セトが出目を言うと、即座にハーレイは次の出目に変える。
これを繰り返している。
「すみません。眠たくて……」
「眠たいのを理由に敵軍は侵攻をやめん!」
「それは、そうですね」
セトは返す言葉も無く頬をかいた。
ついでにヨダレをふいた。
「今回の講義は今起きてる戦争にも少なからず関係している」
「そうなんですか?」
「三カ国の連合は四柱派。対するリニオ帝国は四神派だ」
「教義以外にも違いが?」
「四柱派と四聖派は、その四英雄の立場の違いだけで大きくは違わない。だが、四神派だけは違う」
そこでカリムは言葉を区切った。
「四柱派と四聖派は神罰が二度と下らぬよう魔法の取り扱いも含めて、文明や魔法の発展には慎重だ。しかし四神派は神罰が下ったとしても、再び四英雄が帰還して神罰を打ち払うと信じている」
セトはポカンとした。
既に四英雄は帰還している。
そしてそれはある程度知られていると思っていた。
「え?」
「え?じゃない。これがこの世界の認識だ。そしてリニオは今回の戦争で四柱派を倒し、四神派を正統とすることを目論んでいる、という話もある」
セトはこれまで四英雄の従者のうち、三名を見ている。
そして二名を討つところを見て、一名は自ら焼き殺した。
「四英雄というのは?」
「フィリス、カスティア、ピアネ、メイビスの四人だ。かなり前の講義でも教えたはずだが?」
「その四人は帰還するんですか?」
「四神派はそう信じている」
「教官は?」
「さぁな。古代の英雄だ。神話だよ」
どうやらカリムにはまだ情報が来ていないようだ。
(意図的に誰かが情報を止めている?)
宗教絡みのことだ。
それはあり得る話だった。
(意図的に止めるとして、理由はなんだ?そのうちバレるだろうに)
四英雄が帰還しては困るのだろうか?
困るのは誰だ?
「教官、王妃の一件は?」
「ああ、あれはな、化け物が王妃殿下を殺害して成り代わっていたんだ。あんなときこそ、四英雄の一人でもいいから帰ってきてほしいな」
(既に何らかのシナリオで上書き済みか。いや……違う事実に置き換えた?)
「四英雄はその化け物より強いんですか?」
「まぁ神話になる英雄だからな。強いだろうよ」
(裏工作、と呼んでいいのか?)
きっと誰か困る奴がいる。
そして、それはセトよりも遥か高い地位にいるのだろうと予測できた。




