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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:少年期─他国出征─
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第61話 魔結晶と魔鉱石



マクレラン王国の参戦でも、戦況は変わらなかった。

オブリオン王国はリニオ帝国によって東側の領土を切り取られていく。


へネス教国も兵を出し、オブリオン王国に加勢した。


三カ国連合対リニオ帝国という構図が出来上がる。



そして、セトの勉強も順調に行われていた。


「生物学について、深く教える。実地で役に立つこともある。よく聞け」


カリムが教壇でセトに講義を聞かせる。

セトは興味のある講義では寝ない。


「動物と魔物の違いだ。動物とは、古代文明以前から存在する、自然に成立した生物だと考えられている。そもそも魔素は生物より先に、この世界にあった。生物は進化の過程で魔素を体内に取り入れ、魔素代謝を行う機能を持った。現代の普通の動物も、完全に魔素と無関係ではない。これは既に前の講義で説明済みだ」

「生物的に動物と魔物はどう違うんですか?」


講義の腰を折るように、セトが質問する。


「それを今から説明するんだ。魔物というのは、古代文明の頃の神罰の影響で生まれた。大量の魔素を体内に取り込み、その毒性の蓄積も動物とは比べ物にならない。魔素には毒性がある。それは以前にも教えたな?」

「食えないってことですよね?」

「まぁ、そうなるな」


生物に備わる焦臓によって魔素は毒性を濾され、排泄物に混ぜて排出される。

魔素は血液に乗って体内を循環する。


「次に魔物の特徴だ。魔物には、魔素耐性が高く、魔素を効率的に処理できるという特性がある。これは環境に適応したということだ。魔素を利用して身体機能を強化することもできるし、稀に魔法を使う個体もいる」

「それはケメルさんに教わりました」

「なんであの人は基礎を飛ばしてそこだけ教えた……」


はぁ、とため息をついたカリムは、再び講義に戻る。

魔素と生物は切っても切り離せない関係にある。


「魔物と動物の境界というのは、実はそこまで明確には決まっていない。魔物という個体が現れた頃、それらは通常の動物を捕食し、通常の動物も魔物と競合していた。今でもこの二つは生息域が重なることが多い。そして、その中でも世代を重ねて、高濃度の魔素に適応した個体を魔物と呼んでいる」

「見分け方はあるんですか?」

「明確な基準はない。人間から見て異常、危険、魔素利用能力が顕著な生物を魔物と呼んでいる」


(ということは、毒素の問題を解決したら食えるのか?非常食になるかも)


「ここからが重要になる。魔結晶と魔鉱石に関することだ」

「生物に関係するんですか?」

「魔結晶と呼ばれるものは、生物の体内で生成される。これは生物が取り込んだ魔素が濃縮され、結晶化したものだ。動物や魔物、人間などの体内で生成された場合、血栓と同じような悪さをすることがある」


セトは黒板に書かれた文字を見つめた。

魔結晶。

名前だけなら何度か聞いたことがある。魔物を倒したときに体内から出てくるもの、くらいの認識だった。

だが、それが人間の体内でも生成されるとなると話が違う。


「さらに植物。植物は土中、空気中の魔素を吸い上げ、魔素も循環させる。その時に、植物の特に幹や茎に魔結晶が形成される。魔結晶だけを得たいなら、動物や魔物よりも植物からのほうが得やすい」


植物からも得られる。

というか、それなら微細な魔結晶は食事とともに経口摂取しているはず。

魔結晶そのものは、微細であれば食える?


「食事の際に、肉や野菜などを食べますが、そこには魔結晶が含まれるのでしょうか?」


セトの質問にカリムはニヤリとした。


「微細なものだけだ。体の機能に支障を来たすほどの大きさのものは取り除かれる。必ず火を通したり、水で洗うだろう?魔結晶は熱に弱く、水との親和性もある程度ある」


(水との親和性か……それなら、結晶化するのは動脈硬化みたいなもの?)


「そして最後、魔鉱石。これは鉱物に魔素が混ざったもの。長い年月をかけて、土中で魔素が濃縮され、鉱物に混ざり込む。鉱物の種類によって、魔鉄鉱、魔銀鉱など種類がある。これらを使った武器も存在する」

「教官、質問です。微細なものではなく、これらをそのまま経口摂取した場合は?」

「高濃度の魔素を凝縮している。つまり、毒素分解が追いつかずに中毒症を起こす」


魔素が結晶として存在する。

だが、それだけではない。

魔素は生物の中を巡り、植物にも存在し、鉱物にも蓄積する。 そして、結晶として取り出すことができる。


「理解できたか?」

「もう一点いいですか?魔鉱石なども熱に弱いんですか?」

「鉱物と結合した魔素は性質を変える。魔結晶は魔素単体の結晶、魔鉱石は鉱物と結合した魔素と考えていい。魔鉱石の場合、その結合した鉱物由来の性質になる」


(なるほど、だから武器などにも転用可能なわけか)


「他に何かあるか?」

「いえ、ありません」


魔素は願いを叶える。

それがケメルの教え。


魔素には質量がある。

少なくとも、そう考えるほうが自然だ。

ということは、魔素は特殊な動きをする特殊な成分じゃない。


(物理の第五基本相互作用……仮にそう考えても良さそうだ)


セトの理解はそれだった。


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