第60話 王の決断
マクレラン王国国王、ロイホールド四世は親書を改めて読み返す。
そして、しばらくその紙を見つめ、面倒くさそうに机に放り投げた。
「戦争なんぞ、やりたいか?」
親書の送り主は、東の隣国オブリオン王国の女王。
北からリニオ帝国が南下してきた。
援軍を送ってほしい。
要約すると、そんな内容だ。
「オブリオンは国境を接する隣国です。しかも同じ四柱派。無下に断るわけにいかないかと存じます」
宰相が王に意見を述べる。
「だがなぁ、今か?やるにしても金がかかるぞ?」
今は春。
これから農作物の作付けなどを行う季節だ。
職業軍人以外の動員には、それなりの費用がかかる。
窓の外では、春の風に木々が揺れていた。
王都ではこれから農作業が始まる。
人を集めれば、それだけ畑から人が消える。
「俺はやりたくない。時期が悪い」
「しかし、リニオ帝国は、我が国とも北で一部国境を接しています。オブリオン王国の次は、我が国の可能性もあると推察いたします」
リニオ帝国は東西に広い。
東は大陸の東側にまで張り出している。
そして西側では、オブリオン王国と国境を接している。
そのオブリオン王国の北側に伸びるように張り出した部分が、オブリオン王国の西側にあるマクレラン王国とも接していた。
「そうは言ってもなぁ。国費は?」
「確かに厳しゅうございます」
「そうだろう?王妃の件もあって、王都に費やした分もまだ回収できていないだろう?」
「左様でございます」
広場で繰り広げられた王妃とセトの一件。
その広場の改修費用や、カジノを含めた王都全体への防犯強化など。
加えて他国への根回しや裏工作。
王妃の不始末は噂になってしまったが、ロイホールド四世は、火消しのためにひたすら費やした。
「それでは、今回は?」
「できるだけ返答をしない」
「おそらくですが、へネス教国にも親書を送っておると考えられますが……」
へネス教国。
ラメント教の教皇が座す国。
四柱派の総本山でもある。
「教皇から書簡が届いてから考える」
「よろしいので?」
「まずは国を安定させる。助け舟など、自らが安定せぬうちに出すものではない」
しかしこの決断は、ほんの数日しか意味をなさなかった。
「やはり、来たか」
そう言って手に取ったのは、教皇からの書簡。
「はぁ……」
ロイホールド四世は深い溜め息をつくと、書簡を開いた。
読み進めるほど、眉間の皺が深くなる。
「同じ四柱派として、オブリオン王国に加勢してほしい……か」
最後まで読み終える。
しばらく沈黙した。
「嫌だ」
ロイホールド四世は書簡を投げるように宰相に渡した。
「そうは申されましても、教皇直々にこのように書簡を……」
「だがなぁ……」
「見て見ぬふりは、もはやこれまででは?」
「はぁ………」
ロイホールド四世は眉間を揉み、腕を組み、足を組み替え、悩みに悩んだ。
「職業軍人のみだ。領地貴族や徴兵は行わない」
「かしこまりました」
「人数も絞り込め。大軍を送るつもりは全くない」
こうしてマクレラン王国は戦争に引き込まれた。
マクレラン王国の参戦。
それは養成院にいるセトの耳にも入った。
「教官、この戦争ってなんなんですか?」
養成院の魔法の授業中、セトは専属教官のカリムに質問する。
「あー、気にしなくていい。というか、するな。お前はお前自身の制御に集中しろ」
「どういう意味でしょう?」
「あれを見てまだ言うか?」
カリムが指差す先には、ズタズタに引き裂かれた人型の模型があった。
「俺は風を制御し、敵を制圧しろと言ったはずだ」
「しましたよ」
「周りに民間人がいたらどうする?あの風では民間人もケガをするぞ」
「その条件は含まれていません」
「……クソガキが。いいか?対象を指定された場合、対象からほんの少しも離れた範囲に影響を与えるな」
「なるほど」
「それがなぜ理解できん?」
「初期条件に含めていただかないと──」
「言わんでも含めて考えるんだ!」
セトの専属教育はまだまだ続く。




