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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第57話 有為転変



セトの噂は養成院でも隠すことはできなかった。

曰く、とんでもない化け物を討った、もう一人の化け物。

曰く、広場で破壊の限りを尽くした。

曰く、国王に対して楯突いて処刑されそうになった。


尾ヒレと言えば、まだ聞こえがいい。

そんな噂ばかりだった。

セトが廊下を歩けば、話し声が小さくなる。

そして、通り過ぎればまた元の大きさに戻る。


「坊っちゃん、有名人じゃないですか」


ハーレイはニヤニヤしている。

その噂に、セトは気が付いていた。

だが、わざわざ振り返ることもしなかった。


「望んでない」


セトは迷惑そうに廊下を歩く。

ヒスイとの戦闘以来、養成院に戻ったセトは、同期と同じ教室で学ぶことを完全に禁止された。


『やりやがったな!クソガキ!己のような危険物を他の訓練生と一緒にできるか!』


それが総長のガリオンの言葉だった。


「そういえば、ハーレイ。あの巾着、中身見たのか?」


専属教室に向かって歩く二人。

ハーレイはセトの従者として、授業中も付き添うという条件をつけられていた。

それもガリオンからの要請だった。


「これですよ」


そう言ってハーレイは中身をセトに見せる。

セトはしばらく、その中身の物を見つめた。

あれだけのことをした男が、最後に残したものがこれなのか。

4000年を生きた男の持ち物としては、あまりにも小さかった。


「これは、あのときの?」

「そうです。あの時のものですね」


中身はサイコロだった。


「なんでこんなものを?」

「さあ?楽しかったんじゃないですか?」


二人は首を傾げた。


「持っててくれ。そう言われたんだ。お前、それ大事にしろよ?」

「まぁ、そうですね」


キセムの真意はわからない。

だが、楽しかった。

そう考えると、確かにあのカジノでの出来事が楽しかったように思えた。


「そういえば坊っちゃん。とんでもない約束してましたねぇ?」

「なんだ?」

「英雄の従者、とか言ってませんでした?」

「………言った」

「なるしかないですねぇ」

「ん?」

「坊っちゃんが英雄にならないと、キセムは英雄の従者じゃないでしょ?」

「……………」


セトはスタスタと歩いていく。

言われてみればそうだ。


今のセトは英雄でもなんでもない。

ただの訓練生だ。


「なるしかないな」


セトが立ち止まって窓から外を見ると、東の空には太陽があった。


「どうすればなれると思う?」


聞かれたハーレイにも答えはわからない。


「さあ?俺はゆっくりでいいと思いますけど?」

「じゃあ、ゆっくりやるか」

「それはそうと、このサイコロ、なんか面白い遊びってありますか?」

「チンチロリンなんてどうだ?」

「なんですか?それ?」


そんな話をしながら教室に着く。

教室では既にカリムが鬼の形相で構えている。


「お前!また遅刻か!何度目だと思っている!」


セトの日常は変わったが、それでも変わらない日常がそこにあった。


「次から数えるようにします。今何回目ですか?」

「馬鹿野郎!そうじゃねぇ!」


カリムの苦難は今後も続く。


「ハーレイ!お前も従者ならどうにかしろ!」


ハーレイへの八つ当たりも続く。


「サファンを生き返らせろ!まともな奴を呼んでこい!」

「蘇生魔法なんてあるんですか?」

「やかましい!ないことくらい知っとるわ!」


これがセト・ウォルカの日常。

訓練生としての生活。


日々の移ろいは夏から秋へ。

養成院は長期の休みを迎える。

二ヶ月間の休みだ。

これは戦場における一人の兵士の派遣期間が、マクレラン王国では四ヶ月と決まっていることに由来する。

四ヶ月訓練し、二ヶ月休み、また四ヶ月訓練する。


「さて、坊っちゃん。帰りますよ」

「長かったなぁ」

「いや、坊っちゃんは途中編入だから、他の人より短い」

「それでも長い」

「そうですかぃ。帰る前にカジノ寄りません?」

「金は?」

「チンチロリンで上手いことやってるんで」


ハーレイは手揉みしながらニヤニヤしている。


「いや、帰りたい」

「そんな……一回だけ!」

「帰る」


セトは小瓶を取り出して、ハーレイに見せた。


「なんですか?」

「これな、キセムを焼いたときの灰だ」

「ほぉ。で?」

「ウォルカに埋める」

「灰を?」

「キセムの故郷じゃないけどな、墓は建ててやりたい」

「………はい」


ハーレイはまだ納得していない表情だ。

だが、セトには何となくわかる気がした。

キセムは4000年という時間に、意味を持たせたかったのだろう。

そんな気がした。

セトもできるならば、山崎の死にも意味を持たせたい。

そう思っていた。


「おい、帰るぞ」

「はぁ………しゃーない、ですね」


二人は馬車に乗り込む。

あの改造馬車だ。

王都へ来たときとは違う。

今度は、帰るために乗る。


「ウォルカまで全力で、最速で帰りたい」


馬車は走り出す。

故郷、ウォルカを目指して。

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