第56話 それぞれの後始末
王妃が化け物だった。
その噂は止まることなく、王都マクレランのみならず、バレンタや他の街へも噂は広まっていく。
噂を止めることなどできなかった。
セトらの処刑の様子は、国王も見ていた。
王城の一角に設けられた塔の窓。
そこから広場の様子をうかがっていた。
「やはり、王妃だったか」
それが国王の呟いた一言だった。
一夜明けて、セト、ハーレイ、キセムは王の前に立たされた。
王宮のホール。
今度は裁判ではない。
王が呼び出したのだ。
王宮の一室にて三人は一夜を過ごし、今ここに立っている。
「セト・ウォルカ」
国王に呼ばれる。
セトは一歩だけ前に歩み出た。
「説明しろ。直答を許す」
「はい。それでは、説明致します」
タリカス峠での野盗。
バレンタで聞いた組合。
カリム教官の刺青。
カジノでの一件。
それらは全て王妃につながっていたこと。
ただし、本当に薄くつながっていただけだったこと。
王妃が化け物であると確信して行動していたわけではないこと。
しかし、従者の名前を出した途端に、態度が変わったことで、何か知っているのは間違いないと思ったこと。
それらを聞いて、国王は腕を組んだ。
「なるほど」
しばらくして、王はセトに問う。
「その刺青、俺にはなかった。なぜだと思う?」
「わかりません。ただ、化け物、ヒスイと名乗りましたか?そのヒスイは王妃であることに執着していました。そして、死なないことにも」
「それで?」
「あくまでも個人的な見解ですが、立場が脅かされない限り、国王陛下には必要がなかったのではないかと推察します」
国王はもう一度深く考える。
「だが、俺も勘が働かないわけではない。特にこの数年、王妃にとって都合の良い状況が起き過ぎていた。それに、王妃の周りに情報が集まり過ぎていた。そういう印象はあった」
「疑念を、お持ちでしたか?」
「疑念ではないな。勘というか、政治、とも違うな。しかし、王妃が何か糸を引いている。そういうものがあった」
「違和感、ということでしょうか?」
「それに近いな。しかし、確信は持てなかった」
ホールに沈黙の時間が訪れる。
「俺も教会から英雄たちの神話の件は聞いていた。嘘か夢物語だと思っていた。あの王妃の姿を見るまでは。しかしだ、こうなっては仕方ない。我々が信じてきた神話は覆った。そうなのだろう?」
国王はセトを見る。
「はい。おっしゃる通りです」
そのセトの言葉に、国王は大きく溜め息をついた。
「セト・ウォルカとその従者二名。ご苦労だった。マクレラン王国はお前たちを歓迎する」
セトは何を言われているのかわからない。
今更?
二カ月も前に王都には着いているし、もともとマクレラン王国領のウォルカに住んでいた。
「何をポカンとしておる。お前はこれから養成院にて訓練を受ける。そこに控える筆頭教官、カリム・フローに師事しろ。以上だ」
国王はそれだけ言うと、玉座から立って奥に歩いていってしまった。
「セト。ちょっと来い」
カリムに呼ばれたセトは、まずは左腕の刺青を確認する。
「大丈夫だ。もうない。王妃殿下の死後に消えた」
「そうでしたか」
「それで、だ。今後だが、お前は俺について学んでもらう」
「はい」
「今回の件で、お前はお咎めなし、というわけではない。お前の魔法が大人数に見られた。これは問題だ」
「なぜでしょう?」
「それを学ぶんだ。王命だ。お前を一人前にする」
「それは教官の受けた王命でしょう?」
「クソガキが……」
「とにかく、俺は明日からまた養成院に戻れる。そうですね?」
セトの様子に、ハーレイとカリムは頭を抱えた。
何もわかってない。
だが、一人キセムだけは笑っていた。
──王都の外。
昼と夜が混ざり、日が赤く染まる時間。
「ここならいいか」
セトはハーレイとキセムを連れてきていた。
ハーレイは腕を組んで明らかに不機嫌そうだ。
「坊っちゃん、ありがとうございます」
キセムはセトに頭を下げる。
「いや、いい。最後に聞きたいことがある」
頭を上げたキセムは晴れやかな顔をしている。
「お前は、俺の従者だ」
「はい」
「英雄に葬っていただきたい。そう言ったな?」
「私の願いです」
「撤回しろ」
「………え?」
キセムはそれまでと違ってポカンとした顔でセトを見つめた。
「お前が示したんだ。英雄になれと。だから撤回しろ」
「………どういうことでしょうか?」
「俺を英雄だと言ったのは、お前だろう」
セトはキセムをまっすぐ見る。
「なら、お前だけ勝手に死ぬな」
「……」
「英雄の従者として、葬る」
キセムは薄っすらと笑った。
「…………ありがたいことです」
キセムはもう一度頭を下げた。
そして、ハーレイに向き直る。
「ハーレイ」
キセムはハーレイに巾着袋を投げた。
「持っててくれ」
キセムは跪く。
そして、小さな声で祈りのようなものを唱えた。
「坊っちゃん、ありがとうございます。どうか、ご武運を」
キセムを中心に火柱が立つ。
羽虫になって逃げることもせず、ただキセムは焼かれた。
その煙は、東の空を目指して高く昇った。




