第55話 従者の告白
広場は王国軍がやってきて、後始末を始めた。
王妃は化け物。
その噂はまたたく間に広がる。
それを暴いたセトら三人は、無罪放免、とはならないが、一度王城の一室へと護送された。
その部屋の中に三人はいた。
「キセム、どういう意味だ?」
「なんのことでしょう?」
「殺してほしいとは?」
ああ、とキセムは納得すると、話し出した。
「私は従者、などと呼ばれていますが、そのように思ったことなどないのです」
私は、ただ暮らしていただけなのです。
生活は苦しかった。
妻と娘を食べさせるだけでやっと。
そりゃあ、英雄たちには感謝しています。
暮らしを守ってくれましたからね。
ただ、私は英雄の封印なんてものには関わりたくなかった。
どうでもいいとは言いません。
それに、それが良いこととも思ってませんでした。
関わってしまうのが怖かった。
でも、その封印がされるとき、私はたまたまそこにいただけ。
反対する彼らの近くに。
そして一緒に捕らえられ、封印されました。
怖かったんですよ。
最初はね。
あんな化け物たちと同じ空間にいることが。
私の魔法は生活魔法だけでした。
才能がなかったんです。
ですから、鏡像魔法はおろか、転写や融合なんてできないんです。
それなのにね、他の人は従者を名乗り、私の体をこんな風に羽虫に融合させました。
必要だったと思って、受け入れてはいたんです。
まぁ最初はね、なんとかこの封印から逃れて、元の世界に帰りたい。
その一心だったんですよ。
妻と娘に会いたい。
それだけで受け入れたんです。
でも、こちらに戻ってから、やはり違うと思いました。
「4000年です。あまりにも時間が経ちすぎました。もはや妻と娘に会うどころか、墓すら残っていないのです」
キセムの顔は泣き顔のようになるが、涙は流れない。
「涙を流す器官は羽虫と融合したことで失われました。悲しくても泣くこともできない。私は、ただの床屋だったんですよ。それが、どうして……」
それまで話を聞いていたセトが口を開く。
「それがどうして、殺してくれにつながる?」
キセムは涙の出ない泣き顔でセトを見た。
「私は坊っちゃんの今日の姿を見て確信しました。人々の命を優先しようとする姿。化け物に立ち向かう姿。あなたに、私は英雄の器を見た」
キセムはそこまで言うと、ぎこちない笑顔を作った。
「どうか、あの世で妻と娘に自慢させてください。時間はかかったけど、私は英雄に葬っていただいたのだと……」
そう言うとキセムは頭を下げた。
「どうか……よろしくお願いします……」
それまで黙っていたハーレイが、キセムに近づいた。
「なぁ、本物のサファンは?どうした?」
「サファン・クロネという青年には悪いことをしました。五年前、私が教会に入る前に殺害し、私がその外見を真似ておりました」
「どういうことだ?」
「五年前、教会に入る前に、私は本物のサファン・クロネを殺したんです。教会ならば各地に根を張っていますから、どこかに私を殺してくれる人がいるだろうと思いました。もう生きるということの意味がわからないのです。私はサファンに成り代わり、教会に入ったのです 」
その告白にハーレイは絶句する。
「教会にて、英雄の訪れを待っていたのです。そして、アシュレイが葬られた。それを聞いて、私はあなたの護衛に買って出た」
「勝手すぎやしないか?」
ハーレイがキセムに詰め寄る。
「自己満足だろう!?それは!」
「そう言われても仕方がないのはわかっています。ですが、終わらせてほしいのです」
「だが、お前はサファン・クロネを殺したんだろう!?」
「ええ、そうです。彼の為人は知りません。ただ、教会に入ろうとしていた若者でした。私もまた、ただの化け物なんですよ」
キセムの胸ぐらを掴むハーレイを、セトが制止する。
「ハーレイ、やめろ」
「無理だ!こいつは!」
「やめろ!!」
セトの怒鳴り声に、ハーレイは舌打ちをして手を離す。
「わかった。キセム、わかった」
セトはそれだけ言うと、黙ってそれ以降なにも言わなくなった。




