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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第53話 幻惑のヒスイ



異形の姿を現した王妃に、セトは動じない。

アシュレイとは違う形だ。


「それが、あなたですか?」


そんなセトの様子に対して、ハーレイは固まって王妃を見ていた。


(あんな化け物、見たことねぇけど……)


それがハーレイの感想だった。


「あなたも従者でしょう?」


そのセトの一言に王妃が反応する。


「私は!英雄の妃!ヒスイ!幻惑のヒスイだ!」


ヒスイ……

王妃はそう名乗った。


「お前が私を殺しに来ることはわかっていた。お前はアシュレイを殺した!祭壇の巫女の手先!」


多足類の足がガチャガチャと動き、異常な速さで突っ込んでくる。

ウネウネとうねる蛇の頭がセトとハーレイに襲いかかる。


「お前の望む未来を見せてやる!そのために必要なことを教えてやろう!」


ズダァン!!


ヒスイの胸に、地面が隆起した石の錐が突き刺さる。


「真正面から突っ込むから、そうなるんです」


セトはヒスイの心臓を狙った。

確かに狙い、そして刺した。


ヒスイの身体はダラリと垂れ下がり、力が抜けていく。


「終わりました。けが人の手当てをしましょう」


セトがハーレイに声をかける。

ハーレイは、まだ固まって動けない。


「ハーレイ?いきますよ?」

「あ。え?ああ、はい」


セトはハーレイと共にその場を離れ、処刑台から降りていく。


だが、王妃の組合とサファンの戦闘は終わっていない。


(おかしい……)


セトが振り向いた瞬間、そこには蛇の頭があった。


「心臓が胸だけにあると思うな。小僧。お前は私を見た。私もお前を見た。私はお前の望みを見た………」


セトが蛇の頭を振り払うように腕を上げた。

だが、そこにいたのはハーレイ。


「おっと!この蛇!」


ハーレイはセトに向かって、拳を振り上げる。


まさか……

鏡像魔法か……

禁呪……

なにをしている?


アシュレイは予言だった……

未来?

見せる?

誘導されている?


「ハーレイ!目を閉じろ!」


セトは叫んだが、ハーレイはそんなことはしない。

蛇がいるのだ。

目を閉じられるはずがない。


「坊っちゃん!そりゃ無茶ですって!蛇がいるんだ!」

「その蛇を見るな!」

「見なかったらどこにいるかわからんでしょう!」


あのときは、鏡を見ていた。

電位差の雷撃を使った。

俺にも予測できない場所に落ちたのが良かった。


『民間人が優先です』


ここにはまだ民間人がいる。

不規則な雷撃は被害が出る。


どうする?


狙うか……

食われる……

腹の中からなら?

リスクが高い

どれが幻かもわからない……


王妃……

それだけは事実のはず

こだわりだ


ドレスを裂くか……

なにか証になるものを破壊しようか……


セトは王妃を刺したはずの錐を見る。


(やはり体はないか……移動したのか?)


そこには錐だけがあり、血の一滴もついていない。


「坊っちゃん!」


サファンの声が響いた。

サファンには見えていた。

セトを食い千切ろうと、蛇の頭が四本、セトの後ろで口を開けていた。


「坊っちゃんの後ろ!四匹!」


サファンが叫ぶ。

だが、セトには見えていない。


「どこだ!?距離は!?」

「近い!もう口を開けている!」


セトは振り返らない。

見れば、また惑わされる。

ならば、自分の目ではなく、サファンの言葉を使う。


「右か!?左か!?」

「右!」


セトは右へ跳ぶ。

だが――


「違う!!」

「……?」


サファンの叫びと同時に、ハーレイが振り回す腕がセトの頭を捉えた。


「やったぜ!やっと一匹ぶん殴った!」


ハーレイは得意そうに言うが、その後ろにも蛇がいる。


「ハーレイ!後ろだ!」


サファンは身振りも使って伝えるが、ハーレイには聞こえていない。


ガギィン!


組合の人々は武器を振り回し、魔法を使ってサファンに向かってくる。

それをサファンは受けながら、セトとハーレイに蛇の位置を教えていた。


(ジリ貧だ……ヒスイめ、よもやここで仕掛けてくるとは……)


サファンは目の前の人々が惑わされていることを知っていた。


(奴の魔法は鏡像魔法だけだ。他はそんなに大したことない。望む未来のために行動させるだけ)


チラッと横目に見えたセトは、まだあらぬ方向に魔法を使っている。


(かなりマズい。もう、無理か……隠すのは)


サファンがそう考えていたとき、蛇のうちの一匹がセトを飲み込むように口を開いた。

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