第51話 届かぬ場所
私はただの農村の娘として生まれた。
12歳のとき、王都に売られた。
貧しく食べることができなかった。
兄は死に、妹も死んだ。
父は弟を生かすため、私を売って金を作った。
かつて動物と言われた生き物は、魔物と呼ばれるようになっていた。
魔物たちはその種別に関係なく、農作物を食い荒らしていた。
世界は地獄に変じた時代だった。
大地は魔物で覆われた。
海は魔物で溢れた。
天は暗く、いつまでも長い雨が続いた。
王都での暮らしも大きく変わらなかった。
体を売り、心を売り、日々の糧を得る。
楽しくはない。
だが、死ぬのは怖い。
そんなとき、王を見た。
王妃を見た。
煌びやかに着飾り、城から出てきた。
なんと美しい姿だろうか。
羨ましい。
生まれた場所がほんの少し違うだけで、ここまで違うのか。
産む腹が違えば、こうまで違った世界になるのか。
なんと、恨めしいことか。
憧れ。
憧れにも似た深い妬み。
嫉み。
私も美しくありたい。
そう願った。
恨めしい。
愛されたい。
羨望を集めたい。
王妃のように。
地獄は四人の英雄によって終わりを迎えた。
たとえ、彼らが異形の魔物に変じても、私は彼らを支える。
彼らの横に立ち、美しく、妃のように振る舞う。
それのなんと心地良いことか。
それなのに………
奴らは、私を閉じ込めた。
永遠に続く亜空間に。
時間は永遠に引き伸ばされた。
しかし、英雄たちは暴れまわった。
出口を探し、開いた出口の先で暴れた。
それが元いた世界でなくても関係なかった。
私も暴れた。
封印など。
私は英雄の妃だ。
なんと烏滸がましいことか。
あらゆる世界を旅し、亜空間に戻る。
その繰り返しだった。
融合を繰り返して弄りまわった身体は、もう永遠に老いない。
復讐に戻るため、私は出口の先で生き物たちと融合を繰り返した。
亜空間を形成する魔素を利用した。
そして戻ってきた。
4000年。
もはや悠久に等しいような時が過ぎていた。
なんと恨めしいことか。
だが、私は目を奪われた。
4000年経っても王族というものは変わらない。
煌びやかに着飾る。
私こそ相応しい。
私こそが王妃だ。
王妃を殺した。
その皮をかぶり、その中に入る。
私は王妃と融合する。
私は王妃になった。
それからは、ずっと王妃だった。
誰も疑わなかった。
当然だ。
私は王妃なのだから。
私は離れぬ。
私は屈さぬ。
私は折れぬ。
私は死なぬ。
私こそが相応しい。
私は王妃。
皆を幸せに導く者。
皆に望む未来を見せる者。
私は、皆の憧れを集める者。
皆、私の見せる幸せに喜んで膝を折る。
だが、目の前の子どもはどうだ?
「殿下、あなたは誰ですか?」
なんだと?
誰にものを言っている?
「私は王妃だ。セト・ウォルカ」
そう、私は王妃だ。
跪け。
私こそが王妃なのだ。
私はヒスイ。
この国の王妃だ。




