第50話 処刑場の圧力
磔刑は、マクレラン王国の市場広場で行われる。
処刑されるのは、ハーレイ・オクスウェン、サファン・クロネ、そしてセト・ウォルカの三名。
罪状は、王家の富と財産を侵害した罪。
身分を偽った罪。
国王臨席の裁判において虚偽の答弁を行った罪。
そして、人々を誑かした罪。
いくつもの罪が積み重ねられ、三人には死刑が宣告された。
広場には、すでに大勢の人々が集まっている。
その正面には、三本の磔台。
まだ今日は誰もそこで死を迎えていないのに、羽虫が飛んでいた。
その更に上には、王家の紋章を掲げた大きなバルコニーが設けられていた。
そこに立つのは、王妃。
王家に逆らった不埒者たちの最期を、その目で見届けるためだという。
だが、本来ならば有り得ない。
王族が、犯罪者の処刑に立ち会うことなどない。
王は慈悲の君主であるべき。
神に代わって「慈悲と赦しを与える存在」という建前が、王族にはある。
それなのに、王妃自らが処刑場に足を運び、特別に用意したバルコニーから見下ろすなど。
それほどまでに、この三人の罪は重い。
少なくとも、人々にはそう見えていた。
そして、磔台の前。
三人の罪人が、兵士たちに囲まれて立っている。
ハーレイは青ざめていた。
サファンは黙ったまま、じっと下を向いている。
そしてセトだけが──
王妃を見ていた。
その表情に、恐怖はない。
むしろ。
何かを確かめるような目だった。
「最後まで、その憎らしい目をしているのですね」
王妃がセトに言う。
それに対してセトが答えた。
「俺はずっと監視されてたんじゃないですか?タリカス峠の野盗、養成院での教官。その全ては俺を監視するためのもの。違いますか?」
王妃は答えない。
セトたちの兵士の周りを羽虫が飛び、兵士たちは鬱陶しそうにしている。
「殿下。アシュレイの名に反応しましたね。あなたは何かを知っている。従者、アシュレイが何者か。あなたは知っている。違いますか?」
王妃の表情は崩れない。
「アシュレイは死にました。知っていますか?マールさんの手で、死にました」
王妃は何も言わない。
兵士は槍を持ったまま、セトを睨みつけている。
その顔や腕に羽虫がとまっても、動かなくない。
兵士たちはジッと動かなくなっていた。
兵士とは違い、セトの言葉は止まらない。
「あなたも従者では?あなたも、封印されていませんでしたか?」
その言葉に広場の全員が息を飲んだ。
一瞬だけ王妃の目が揺れる。
「あなたは、予言のアシュレイの死を知ったあと、俺たちの監視を始めた。殿下、あなたは、王妃殿下ですか?」
広場の全員が王妃の方を向く。
王妃の呼吸が上擦る。
「無礼な!早く刑を!」
王妃の声が、広場に響いた。
だが、その声には先ほどまでの余裕がなかった。
「王妃殿下?」
広場の誰かが呟く。
声質とは違って王妃の表情は無表情だ。
「黙りなさい!」
王妃が叫ぶ。
「この子どもは、4000年前の亡霊に操られている!聞く耳を持つ必要などありません!」
「……どうして、そんなことを知っているんですか?」
「……なにを?」
「俺は4000年なんて数を話してない。マールさんのこともあなたは知らないようだった。それなのに、それだけをなんで知ってるんですか?」
王妃は一歩、後ろに後ずさる。
「そんなもの、古文書を読めば分かる」
「じゃあ、アシュレイは?」
「……」
「アシュレイという名前を、どうして知ってるんですか?」
「……その名は、古文書に──」
「古文書には載ってないと思います。九人の従者とのみ伝わっているはず。養成院の講義でそう教えています。名前は載っていないのでは?」
王妃の顔が、初めて醜く歪んだ。
「殿下、あなたは誰ですか?」




