第49話 国王裁判
国王裁判。
または、その形態によっては王座裁判とも呼ばれる。
国王が臨席し、その御前で行われる裁判だ。
中世ヨーロッパにおいて、王権の強化と中央集権化に伴って成立し、イギリスやフランスなどで行われたとされる。
マクレラン王国においても、それは変わらない。
王宮。
その巨大なホールの最奥には、王座がある。
その一段下に裁判官たちが並び、さらにその前に被告人が立たされる。
傍聴席には、王族や貴族、そして事件の関係者たち。
普段ならば、そう簡単に足を踏み入れることのできない場所だった。
その中央に、セトたち三人は立っていた。
「被告人!セト・ウォルカ!」
声がホールに響き渡る。
こうして、裁判は幕を開けた。
「お前の罪状は、王家の富及び財産への侵害だ!相違ないな!」
「違います」
セトのその言葉に、傍聴席がどよめく。
国王の臨席の場において、その罪を全面的に否定した。
それだけで、周囲には反抗的な態度と受け取られる。
「では問う。なぜカジノにおいて、王家の利益を損なうほどの金銭を得た?」
「カードを数えたからです」
「それが不正だと言っている!」
「ですが、禁止されていません」
再び、ホールがざわめく。
「口答えするな!」
裁判官の一人が声を荒らげる。
「お前は王家の施設において、王家の利益を損なう行為をした。そのうえ、身分を偽り、仲間と共謀していた。違うか?」
「身分は偽っていません」
「教会から身分を保証された訓練生と称したそうだな!」
「はい。実際にそうです」
「王宮ではそんな届出をされた記録は確認できていない!」
「僕は届出があるとは言っていません」
「ならば偽称ではないか!」
「なぜですか?」
裁判官が言葉を詰まらせる。
セトは不思議そうに首を傾げた。
「確認できていないだけなら、嘘をついたことにはならないと思います」
「……」
「それに、カードを数えることも禁止されていませんでした」
「黙れ!」
裁判官が机を叩いた。
「ここは王宮だぞ!」
「はい」
「国王陛下の御前だ!」
「はい」
「少しは態度を改めろ!」
「言われていることがわかりません」
セトは本当に分からないという顔をしていた。
その態度が、かえって傍聴席の反感を買う。
「なんという無礼な……」
「子どものくせに……」
「王家を侮辱しているのか?」
そんな声が次々と上がる。
そのとき。
王座に座る国王が、初めて口を開いた。
「……面白い子どもだ」
ホールが静まり返る。
「そなたは、自分が何をしたのか理解しているのか?直答を許す。答えよ」
「カードを数えて、勝てる可能性を上げました」
「それだけか?」
「それだけです」
国王はしばらくセトを見つめる。
そして、わずかに笑った。
「なるほど」
その一言で、裁判官たちの表情が変わった。
国王が何を考えているのか。
誰にも分からない。
だが、セトの目は国王の隣の女性を見ていた。
おそらく、王妃。
ほぼ、間違いなく。
王妃が目の前にいる。
裁判官が呼ばれ、国王と何やら話している。
国王が何か意見を言っているようだ。
裁判官は席に戻り、口を開いた。
「カジノ側からの報告によれば、貴様には数々の罪があるとされている。それについての申し開きは?」
「では、その報告を書いたのは?」
「警備責任者だ」
「その警備責任者は?」
「どういうことだ?」
「彼らが嘘をついている可能性は?」
「彼らは国王に仕える者たちだ!それを愚弄するのか!?」
裁判官は怒り、机を叩いて立ち上がった。
傍聴席でも再びどよめきが起こる。
その時セトは気がついた。
傍聴席にカリムがいる。
カリムがいることは、あり得ることかもしれない。
だが、その隣には身なりが全く違う人物。
その隣にはまた違う身なりの人物。
どうにも身分が違う一団が固まっている。
(これは、普通なのか?)
その答えをセトは持っていない。
「どこを見ている!」
裁判官が怒鳴る。
セトは傍聴席の一団を指した。
「カリム教官の隣にいる人たちは、どういう人ですか?」
しかし裁判官は答えない。
「今回の事件とは関係ない。答弁に戻れ」
「彼らは同じ組合の方ですか?その割には身分に差があり過ぎるように思います」
「それが何だというのだ!答弁に戻れ!」
傍聴席がざわつく。
セトがふと前を向くと、王妃が立ち上がっていた。
「……恐ろしい子ですね」
「殿下?」
「人の顔を見ただけで、なにを疑っているんですか?このような考え方をする子どもは、誰かに操られているのではありませんか?」
王妃は裁判官に言っているのか、どこに言っているのか、視線が定まらない。
「そこの二人もそうなのでしょう?」
「……?」
「その子に操られている。そう考えれば、今回の事件も説明がつきます」
王妃はセトを見た。
その目は、確信している目だった。
「磔にすべきです。この子どもは人々を惑わせる」
何かがおかしい。
結論ありきの裁判。
それそのものは、文化や権力構造の問題で起こり得ることだ。
だが、そこに至るまで……
最初から最後まで……
ウォルカを出てから始まった……
刺青……
始まりがウォルカを出たとき……
出る前にあったのは……
カマをかけてみるか……
「殿下、アシュレイをご存知ですか?」
王妃の表情が止まった。
ほんの一瞬だった。
だが、セトには十分だった。
(……知ってる)
そう思った瞬間──
「即刻!磔にせよ!」
王妃が叫んだ。
この国の量刑については、裁判官が決める。
だが、王族が口を挟めば別だ。
命令ではないが、大きな影響を及ぼすのは間違いない。
司法への王権の介入、中央集権化。
それが国王裁判。
「セト・ウォルカ!ハーレイ・オクスウェン!サファン・クロネ!三名を磔刑に処する!」
三人の処刑が決まった。




