第47話 カウンティング
セトは一階の手すりから足を放り出して座り、地下の賭場の様子を眺める。
「ここからならよく見える」
そう呟いてじーっと一点を見つめる。
「坊っちゃん、なにを見てるんですか?」
サファンが声をかける。
「癖を見てる」
狙うのは、ブラック・ジャック。
ここからならテーブルがよく見える。
シャッフルは二十ゲーム以内に一度。
使われているカードは……六デックか。
今がシャッフルから五ゲーム目。
まだ多いな。
もう少し減ってからがいい。
「ハーレイ、ブラック・ジャックだ」
「え?」
「ここからならテーブルがよく見える」
「……はい」
「指示は出す。こちら側に向かって対面に座れ、堂々と。手札はオープンにして俺に見えるようにしてほしい」
ブラック・ジャックのテーブルは、下を覗くと目の前にある。
セトのいる位置からは、テーブルを横に見る形。
(今座っている三人の手札は見える……ディーラーの手札は伏せられている。まぁいい。ハーレイが手札をオープンにすれば、ある程度の計算は可能だ)
──数える。
ただ、それだけ。
「必ず手札はオープンだ。堂々とやってほしい。というか、俺の対面側に座るから、手札が見えないと話にならない」
セトはハーレイを見た。
まだしょんぼりとしている。
「ハーレイ」
「はい」
「最初は賭けるな」
「え?」
「三ゲーム見る」
「三ゲームも?」
「必要だから」
セトは地下のテーブルから目を離さない。
「カードが出るたびにオープンすること」
「……それで勝てるんですか?」
「勝てる可能性を上げる」
「それ、勝てるって言わないんじゃ……」
「ギャンブルだ。勝ち負けは絶対じゃない」
セトは淡々と答えた。
「確実に勝てるなら、ギャンブルとは呼ばない」
「わかりました」
「ハンドサインを決める。俺はここから指示を出す。指示通りにしてくれ」
セトとハーレイがハンドサインを決めていく。
それが終われば、あとは実戦あるのみ。
「それでは、サファン。種銭を」
サファンは驚いてセトを見る。
「俺は未成年。お金はない。サファン、ハーレイに幾ばくか恵んであげて」
「……坊っちゃん」
「ん?」
「それは私の金ですよ」
「知ってる」
「なぜ当然のように使おうとしているんですか」
「ハーレイが全部失ったから。全部ハーレイのせい」
「その理屈はおかしい」
「取り返す。それで戻ってくるから」
サファンは渋々ハーレイに金を渡す。
「倍にしてくる!」
ハーレイはそれだけ言うと、走って賭場に向かった。
現在ゲームは八ゲーム目。
ここから十一ゲームまでは様子見。
そこから二十ゲームまで。
シャッフルされるまでが勝負。
「種銭は半分だけ賭ける。毎ゲーム、必ず勝った額の半分を賭ける」
セトの呟きに、サファンは不安を隠せなかった。
人差し指一本 → HIT
手のひら → STAND
二本指 → DOUBLE
指を軽く振る → BET増額
腕を組む → BETを最低額
首を横に振る → 今回は賭けない
ハンドサインを駆使して六ゲームをこなす。
賭け金は倍どころかかなりの額に増えていた。
(これは……坊っちゃん、これはこれでありだぁ)
ハーレイはさっきまでと違い、ニヤニヤが止まらない。
だが、ディーラーは気がついていた。
ハーレイは毎回一つの方向ばかり注視している。
その方向には妙な子どもがいる。
子どもの手を見ていれば、何かの指示のようにも見える。
時折、後ろに控えた男が何かを子どもに話し掛けていた。
(怪しすぎるだろう)
それがディーラーの感想。
魔法が使われたのなら感知する装置は付いている。
魔法による不正ではなさそうだ。
だが、何らかの不正をしている疑いがある。
(こいつ、いや、こいつらか。何ゲーム目から入った?)
そして、十九ゲーム目。
「ハーレイ、BET増額」
セトがサインを出す。
ハーレイが大きく賭ける。
(後半から入った。妙な動き、視線……)
ディーラーはセトを見る。
またサイン。
ハーレイがDOUBLE。
「おい!お前!なにかしてるな!」
ディーラーがハーレイに叫んだ。
「上にいる子どももだ!警備!そいつらを捕まえろ!」
警備がセトとサファンを取り囲む。
二人は大人しく捕まったが、ハーレイはそうではない。
「今!勝ってるんだ!次も!」
何やら叫んで暴れている。
「動くな!暴れるな!」
結局ハーレイは制圧され、三人とも奥の部屋に連れて行かれた。




