第43話 腕の印
魔法の実践で火柱を立てたセトは、首根っこを掴まれるようにして連れていかれた。
着いたのは、いつもの専属教室だった。
「お前は!加減というものを知らんのか!」
開口一番、カリムが怒鳴る。
「ちゃんと調整しました」
「どう調整したつもりだ!?」
「正確な距離を測りかねたので、範囲を絞りきれませんでした。ですから、誤差分として範囲が広がりました。それが問題であるなら、精度を上げるよう距離測定の精度を上げます」
「ふざけてるのか!?」
セトの大人ぶった利口な口調はカリムを余計に苛立たせた。
「ふざけてませんけど」
「なら、なぜ的を焼き払う必要がある!」
「当てるためです」
「そういう意味じゃない!」
「…………?」
セトは本気で分からないという顔をした。
「普通はな!火球を飛ばして、的に当てるんだ!」
「火球を飛ばす必要がありますか?」
「ある!」
「なぜ?」
「なぜって……」
カリムは言葉に詰まった。
「……それが課題だからだ」
「効率が悪くてもやるんですか?」
「…………」
カリムは頭を抱えた。
こいつに魔法を教えるのは、思っていた以上に面倒かもしれない。
「そもそも火球が相手に見えてしまえば軌道も見えます。避けられますよ?」
確かにそうなのだ。
セトの意見はもっともでもある。
「あれは基礎ができているかを見るための課題だ。軌道が見えねば基礎ができているかもわからんだろう」
「なるほど」
「お前はそこをすっ飛ばした」
「ダメですか?」
「ダメだろう!的を焼き落とすのが目的の課題ではない!」
身振り手振りを交えながら、カリムは熱く説教をしている。
セトはその内容など頭には入って来なかった。
目線の先は、その左腕にチラチラ見えるトライバル風の刺青だ。
「聞いているのか!」
「はい」
「いいや、聞いてないな。お前の目線は微妙に違う場所を向いてる。目を見ろ!目を!」
カリムはセトに詰め寄る。
「今回は的が離れていた。だが、戦場では?的にすべき相手だけが、そこにいるとは限らない。全てを吹き飛ばせいいとは限らない」
「はい」
「わかっているのか?」
カリムはセトの机に手をつき、セトの顔を覗き込む。
「もう二度と勝手なことをするな。目的を果たすことと、結果を最大にすることが、いつも一致するとは限らない」
「はい」
「……本当に分かっているのか?」
「はい」
だが、その返事をするセトの目線は相変わらず腕に注がれている。
「なら、その目はどこを見ている?」
「先生の腕です」
「……腕?」
「その模様です。それ、なんですか?」
カリムは一瞬だけ黙った。
「これか?なぜこれが気になる?」
「いや、ちょっと見覚えがあって」
「見覚え?これは王妃殿下に拝謁した時に頂いた印のようなものだ。それを孤児だったお前がなぜ見たことがある?」
王妃?
その言葉は聞き慣れないものだ。
山崎の記憶では、雲の上の人。
セトの記憶では、聞いたことのない人。
「王妃殿下……ですか?」
「そうだ。去年の卒業生に王子殿下がいらっしゃった。その筆頭教官が俺だった。だから頂いた。王子殿下は今軍属として──」
カリムによる王子の優秀さをアピールする話が始まる。
しかし、セトはその腕の刺青から目が離せない。
(王妃……なんで?なんで王妃が絡んでくる?)
カリムの話は徹頭徹尾、頭に入ってこなかった。




