第42話 魔法の授業
その日の午後。
昼休憩を終えて、教室に戻ると、そこにはカリムがいた。
「次の授業は、魔法の実践になる。セト、お前は別だ。この授業には出るな」
「はい」
教室を出ていこうとする二人の背に、アルジェスが不満を口にする。
「教官!なぜセト・ウォルカだけ特別扱いなのでしょうか?」
カリムは振り返ると、
「まだこいつには、一般の実践訓練を受けさせる段階ではない。今のまま実践訓練に混ぜるのは危険だ」
「危険とはどういうことでしょう?我々も二ヶ月以上この授業を受けています。彼だけ別扱いをする理由になるとは思えません」
さらにアルジェスは言葉を続けた。
「我々が彼より劣っているということですか?そうは思えません」
その言葉にカリムの顔が険しくなる。
「お前たちと同じことをさせて事故が起きたら、誰が責任を取る?」
その言葉にアルジェスは黙った。
しかしセトが口を開いた。
「俺は、別に混ざらなくてもいいけど」
その一言にアルジェスの顔が歪んでいく。
「お前の!その態度が!」
はぁ、と大きな息をついたカリムが、セトの頭にゲンコツを落とした。
「余計なことを言うな!………もう仕方ないか。実力を見ればわかるだろう」
セトは痛みに涙目になるが、なぜ殴られたのかイマイチ理解していない。
「とりあえず闘技場に向かう。セト、お前も来い」
──闘技場。
そこは円形に広く、下地に砂を敷き詰め、まるでコロッセオのようにも思えた。
「ここで、火魔法を使ってもらう。課題は、あの的。あそこに火球を当てろ」
カリムが的を指さした。
距離にして20mほどだろうか?
弓道の的のようなものが設置されている。
「遠い」
「的小さい」
訓練生たちは口々に言っている。
「魔素の扱いはわかっているな?今日は実戦だ。感覚を掴め」
一人目の火球は的に届かず消えた。
二人目は指先から飛ばすことができなかった。
三人目の火球は大きく外れて的に当たらなかった。
次々訓練生たちが課題に取り組むが、一人二人が的に当てるだけで、なかなか当たらない。
「次!アルジェス!」
アルジェスは自信あり気に前に進み出る。
指先に集中して放たれた火球は、見事に的に当たった。
「やっぱりアルジェスは当てるよなぁ」
周囲はそんなアルジェスを持ち上げる。
アルジェスも満更でもなく胸を張っている。
「次!セト!」
セトの順番になる。
「カリム教官。質問です。課題は的に当てること。それでよろしいですか?」
「ああ、そうだ」
「ありがとうございます。では、当てます」
セトは右手を突きだした。
的まで20mほど……
正確な距離は……
指と三角関数である程度なら……
誤差を含めて、範囲は……
その様子を見て、カリムは嫌な予感がした。
「セト!何を考えている!」
その言葉を言い終わる前に、的を巻き込むように火柱が上がった。
ドォォンッ!
大音量とそれに伴う風で、地面の砂が巻き上がる。
「馬鹿野郎!だから!……くそ!消火しろ!」
焦るカリムを見て、セトは満足して胸を張る。
「当たりました」
その様子を見ていた訓練生の中には、突然の出来事に尻もちをつく者もいた。
パチパチと焼け落ちる的。
熱で溶け出した砂。
消火に勤しむカリム。
「間違えたのかな?」
そう言って振り返ったセトに対して、なにか答えを言う同期はいなかった。
ただ、恐怖にも似た「規格外」を見つめる目だけがそこにあった。
「クソ!あー、わかったか?これが、セトを隔離する理由だ!」
消火を終えたカリムが戻ってくる。
袖口はちらほら焦げて黒くなり、一部は裂けていた。
「魔法だけ規格外。だからこの授業には混ぜられんと言ったんだ」
訓練生たちはただ頷く。
「セト!お前はこっちに来い!反省だ!他は教室に戻れ!」
そうやって指示を出すカリムの左腕に、あのトライバル風の刺青が見えた。




