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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第40話 初めての同期生



その日、セトは授業を終えて寮に戻った。


「おい!」


後ろから声が聞こえるが、きっと自分のことではない。

セトは全く気にせずテクテクと寮の入り口に入っていく。


「おい!お前だ!ガキ!」


ガキ、と呼ばれて、おそらく周りにそれっぽい人物は見当たらない。

セトは立ち止まって後ろを振り返った。


「俺のこと?」


そこにいたのは、身なりの良い三人組。


「お前以外にガキがいるか?」

「ちょっとこっち来い」


とりあえず理由もわからずついていくはずがない。

山崎の知識が『これは面倒事だ』と警鐘を鳴らす。


「いえ、疲れてるので、お暇します」


お辞儀をして踵を返そうとするが、


「お前誰だ!?」


下げた頭の上から言われた。

セトは頭を上げ、


「ご挨拶が遅れました。二カ月前に編入しました。セト・ウォルカです」


とりあえず挨拶をした。


「お前貴族じゃないな?」

「違います」

「そうだよな。そんな家名は、聞いたことない」

「はい」

「お前、なんで一人部屋なんだ?」

「知らないです」

「嘘つくなよ。従者まで二人いるだろ」

「従者だから」

「だから、それがなんでだって聞いてんだよ」

「僕に聞かれても……」


それがおかしいのかどうか、セトにもわからない。


「貴族の隠し子か?」

「俺、孤児だから貴族じゃないんだけど」

「……は?」

「推薦状をもらったから入れたんだと思う」

「推薦状って誰のだ?」

「マールさん」

「誰だよ、それ」


三人組は笑い出した。


「それで?お前一人で専属で勉強?なんでお前だけそんな好待遇なんだ?」

「わかりません」

「わからないわけないだろ」

「本当にわからないんですけど」

「じゃあ、推薦状を見せろよ」

「持ってません」

「なら、従者に聞けばいいだろ」

「二人とも、僕より先に入学してるなら色々詳しいんじゃないですか?」

「……なんだよ、その態度」

「普通に話してますけど」

「お前っ」


セトは飛んできた拳を避ける。

これまで見てきたどんな拳よりも遅い拳だった。


「お前、俺たちを馬鹿にしてるのか?」


セトはその言葉に、本当に不思議そうな表情になる。


「してませんけど」


三人組が飛び掛ってくるが、全てセトは避けてしまう。


「すみません。本当に毎日勉強ばかりで疲れてるんです」

「うるせぇ!」


──なにをしている!!


後ろから怒鳴り声が聞こえる。

寮の宿直の教官だ。


「お前たち!何をしていた!」

「こいつが……」

「僕は何もしてません」

「お前は黙っていろ!」

「はい」

「……」

「……」

「セト・ウォルカ。お前は何をした?」

「避けました」

「避けた?」

「はい。殴られそうだったので」

「…………」


教官はしばらく黙った。

その沈黙を破ったのは、三人組の中でも一番身なりの良さそうな男だった。


「こいつが俺たちを馬鹿にしたんです!」


教官がその男を見る。


「アルジェス・ド・ディターン。お前はそれが理由で殴ったのか?」

「……はい」

「お前たちは何歳だ?」

「十五です」

「セトは?」

「七……」

「七歳児を三人で囲んで殴ったのか?」

「…………」


アルジェスと呼ばれた男は悔しそうに俯いた。


「ここは士官を育てる場所だ。気に入らない相手を殴れば解決すると思っているなら、今すぐ退学届を書け。貴族であってもそれは変わらない」

「…………」


アルジェスたちは何も答えない。


「……お前ら、こいつが何者か気になっただけだろ」

「……はい」

「だったら最初から普通に聞け。この話はこれで終わりだ。全員部屋に帰れ」


トボトボとアルジェスたちは寮に入っていく。


「セト、あいつらは一年目。お前の同期生だ。仲良くしろとは言わん。だが、揉め事は起こすな」


教官はそう言い残して寮に入っていく。


(俺のせいじゃないんだけど)


それがセトと同期生の初邂逅だった。

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