第4話 曇天の朝
『どこだ………』
あぁ、これは夢だ。
セトは眠っている。
そして、今聞いている声は、何度も夢で聞いた声だ。
『どこにいる………』
誰かを探している声。
『見つける………』
誰かもわからない声。
生まれる前から聞いていたような気がする。
『必ず………殺す……』
いつもは大抵このセリフのあとに目覚める。
夢だという自覚もある。
(おかしい……夢が醒めない)
『見ぃつけたぁ………』
そこで目が覚めた。
寝汗で服はビシャビシャになっている。
まだ少し薄暗い部屋の中で、セトは荒い息を吐いた。
窓から差し込む朝の光は弱い。
(いつもとは違うとこで起きた)
「セト!セト!」
外から母さんが呼ぶ声がする。
また何か言いつけられる。
「今行く!」
寝ぼけ眼を擦りながら、セトは窓を空けてエーコに言った。
朝ごはんの前に何か言いつけられる。
「はぁ……」
夢がいつもと違ったのが気になる。
夢占いなんて信じてもいなかったのに……
(夢占いってなんだ?)
とりあえず着替えて外に出る。
今日は曇り空だ。
曇天が北の山の向こうから広がっている。
こういう日は大抵雨になる。
「雨になる前に、この前アンタが広げた薪をどうにかして!」
「片付けたよ?」
「湿気る!」
「湿気ても使えるよ?」
「火がつきにくいの!」
エーコは魔法が下手だ。
とにかく無駄が多い。
家事に使うだけでも、かなりの体力を使っている。
「こう、さ。可燃物と酸素、そこに熱を与えるだけだよ?」
「知らないわよ!火は火!つかないと意味がないの!」
理屈がわかっていない。
だから無駄が多い。
「父さんは、無理か」
「あの人はそういう体質じゃない」
「じゃ、僕がやろうか?」
「子どもが火なんて危ないでしょ?」
「薪は割ったよ?」
「火はダメ!」
何が違うのかよくわからない。
制御さえできれば、問題ないはずなんだが。
「じゃ片付ければいいの?」
「そ、湿気ないように」
「湿気なかったらいいのか」
地面に直接置かない。
風が通るようにする。
屋根も有ればいいかな。
「母さん、薪ってさ、こんなにいる?」
「アンタが切ったんでしょ!」
「ちょっと使っていい?」
「使う分だけ残ってればね」
じゃ、いいか。
セトは形を想像する。
高床。
屋根。
壁は三面で、隙間を作る。
屋根の軒を伸ばして雨の入りにくい構造。
高さはある程度いる。
中に薪を入れるときは井桁に組む。
釘は……鉄でいいか。
土の中にある鉄を集めればいい。
純粋なFeではない。
酸化鉄が混じっている。
まあ、いいか。
必要な形にすればいい。
「これなら行けるな」
セトは薪を一本持ち上げた。
まず柱。
次に梁。
屋根。
頭の中で組み立てた形を、そのまま現実に押し出していく。
風が巻き起こった。
地面の土が舞い上がり、薪が一斉に宙へ浮かぶ。
ガガガガガガガッ!
木材同士が激しくぶつかりながら、次々と組み上がっていく。
「もう少し静かにできないかな」
セトはそんなことを考えながら、最後の一本を配置した。
ガガガガガガッ!
プラモデルでも作るかのように、小屋は出来上がった。
小屋は、セトが頭の中で描いた通りの形になっていた。
地面から少し浮いた床。
三方を囲む壁。
大きく張り出した屋根。
壁には風を通すための隙間がある。
「うん。これなら濡れない」
セトは満足そうに頷いた。
「セト」
「なに?母さん」
「うるさい」
「うん。おんなじ気持ち」
エーコはため息をついた。
「朝ごはん食べようか。今日はケメルさんが山菜採り手伝ってほしいって言ってたよ」
「雨降りそうだよ?」
「とりあえずケメルさんちに行くだけ行ってみたら?」
セトは家にいたいと言えずに、空を見つめた。




