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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第36話 一人の夜



一人部屋が充てがわれた。

希望通りだ。


「マールさんの推薦状の効果かな?」


セトは自分がどう評価されたのか知らない。

聞いたのは、編入試験の合格、そして一人部屋。

セトはマグナ、ハーレイ、サファンを連れ立って部屋に向かう。


「結構なんだかんだと失敗したと思ったけど、コネ入学かな?」


大人たちの評価など、七歳のセトには関係ないのだ。


歩きながら部屋に向かう。

マグナ、ハーレイ、サファンもついてくる。


「皆さんもこちらにいるんですか?」

「いえ、私は報告のために教国に戻ります。おそらくこちらには、もうなかなか来れないでしょう」


そう答えたのはマグナだ。


「教国って?」

「マクレラン王国の隣国、へネス教国です。ラメント教四柱派の教皇の治める国ですよ」

「ラメント教?」

「はい。こちらのマクレラン王国も四柱派を国教としています」


セトは山崎の記憶にある宗教を思い出す。

巻き込まれると面倒なヤツだ。


「そうなんですね。えっと、ハーレイさんとサファンさんは?」

「二人はこちらに残って護衛、というか、従者として坊っちゃんに従います」

「従者ですか?」


従者という言葉には嫌な思い出がある。

予言のアシュレイだ。


「従者と言っても、特別に何かあるわけではありません。ただ、坊っちゃんに従う。それが役目です」


部屋に着いて荷物を置く。

特別広いわけではない。

机、ベッド、クローゼットなどは備え付け。

余計なものはなかった。


「坊っちゃん、俺らは今から坊っちゃんの従者だ。俺のことはハーレイ、こっちはサファンと呼んでくれ」


ハーレイが急に言葉を崩して声をかけてきた。

それにサファンも続く。


「はい。そのようにお願いします。私たち二人は、あなたの従者です」


その様子にマグナは頷き、


「坊っちゃん、頑張ってください。あなたの成長を、私は楽しみにしています」

「ありがとう。ねぇ、そのうち会いに行ってもいいの?」

「もちろんですよ。歓迎します」


荷解き、と言っても荷物はほとんどない。

セトの荷物は、村と共に焼けてしまった。

着替えなどは、王都で買い揃えたものばかりだ。


「じゃ、荷解きが終わったんで、俺らは従者用の建屋に行きますね」


ハーレイ、サファン、そしてマグナも部屋を出ていく。

セトはその背を追った。


「マグナさん!」


マグナは驚いて振り返る。


「どうしました?」

「お見送りを……」


それはマグナたちにとって意外な言葉だった。

セトは感情表現をあまりしない。

それが共通認識だった。

ただの礼儀かもしれないが、それでも意外で、嬉しいことだった。


「坊っちゃん、ありがとうございます」


寮の入り口でマグナを見送ったセトは、一人で部屋に戻る。


たった一人。


これまでは両親がいた。

両親が死んだあと、姉やマールがいた。

そのあとは護衛の三人がいた。


たった一人の夜は初めてだった。


セトは独り、ベッドに寝転がって考える。


俺は誰なんだ?

セト、という子供。

山崎響一は目の前で死んだ。

知識は山崎のものだが、山崎ではない。

孤児。

捨て子。

産みの親の顔は知らない。


僕はゼラムとエーコの子。

だが、血はつながっていない。

姉はいる。

アメリア・ウォルカ。

だが、血はつながっていない。

それでいて、セト・ウォルカを名乗っている。

セト・ウォルカとは、何者なのか?

その答えは出ない。

実感のわかないつながりだけが並べられていく。

僕は、俺?

誰だろう。

僕も俺もわからない。


セトというのが本当の名前ではないのかもしれない。

それなら、俺は誰だ?


セトでもなく。

山崎でもなく。

捨て子の赤子は誰なんだ?


孤独という重圧がセトを押し潰す。


「俺は誰だ?」


その問いの答えは、まだ出ない。


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